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なお、この動画の3時間3分45秒あたり~で私が説明している、予備H29短答憲法第1問ウの解答プロセスについて補足説明します。

 

前提として、その解答プロセスを確認しますね。

 

①本問の

“イ.前記判決は,日本国民である父親から出生後に認知された子について,父母の婚姻が日本国籍の取得の要件とされている点をして,立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用したものであるとした。”

が、正しいと判断できたとする(例えば4A条解テキスト(憲法)に載っている国籍法違憲判決の判旨の下線部が目に入っていたとかで)。

 

②他方、

“ウ.前記判決は,婚姻関係にない父母から出生した子について将来にわたって不合理な偏見を生じさせるおそれがあることなどを指摘し,父母の婚姻という事柄をもって日本国籍の取得の要件に区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては慎重に検討することが必要であるとした。”

の文面だけからすると、区別(私は正面から“差別”と言うべきだと思う)の合理性の判断基準を“慎重に”≒厳格にする方向のように見える。

これは、正しいと判断できた①記述イの“合理的関連性”という緩やかな判断基準とは反対方向の記述といえるので、記述ウは誤っている。

 

…このような解答プロセス(解法テクニックとしては“方向性”)で、本問の記述ウは、結果的に正解できます。

 

しか~し(ここから補足説明)、実は国籍法違憲判決の一節には、このように書いてあるのです(下線は私が引きました)。

「そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,同項に違反するものと解されることになる。
 日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。

…つまり、合理的関連性という判断基準自体は緩やかなんだけど、その基準へのあてはめは「慎重に検討する」というスタンスだと読める(法曹会『最高裁判所判例解説〔民事篇〕平成20年度』P294も同ニュアンス)。

とすると、上記の解答プロセス②は、国籍法違憲判決の知識としては誤りです。

 

…どう?

「やはり、判決全文にわたる正確で深い“理解”・記憶が必要だ!」

とか思った?

…それより優先順位の高い短答・論文対策をこなした上で余裕があるなら、そこまでやってみてもいいかもしれません。

 

しかし、その方法論で、国籍法違憲判決が、記述ウのように“婚姻関係にない父母から出生した子について将来にわたって不合理な偏見を生じさせるおそれがあることなどを指摘し”ていないことを判断するためには、同判決全文を隅々まで(“理解”・)記憶していなければならないのではないでしょうか。

一応、短答過去問(司・平26-3(予2)-ア)では、似た記述(“日本国籍は重要な法的地位であり,父母の婚姻による嫡出子たる身分の取得は子が自らの意思や努力によっては変えられない事柄であることから,こうした事柄により国籍取得に関して区別することに合理的な理由があるか否かについては,慎重な検討が必要である。”)が出題されてはいますが、国籍法違憲判決は他のところで“婚姻関係にない父母から出生した子について将来にわたって不合理な偏見を生じさせるおそれがあることなどを指摘し”ているかもしれないでしょう?

 

そう、これは“悪魔の証明”消極的事実の立証)みたいなことになってしまうのです。

短答の、しかも憲法に絞ったとしても、出題可能性ある判例全てについて、現実的にそこまでできますか?

 

…司法試験系の過去問をこよなく愛する私は、本問の出題者が受験生に対し、“悪魔の証明”的なものに魂を売ることまで求めているとはどうしても思えません。

それよりも、本問の出題者は、

「少なくとも予備短答H29の時点においては、①記述イのような、国籍法“違憲”という結論に直結する部分だけを知識として持っていることを求め、あとは②のような現場思考を期待していたのでは?」

「それを超えた知識が中途半端にあると間違える(ex.非嫡出子相続分規定違憲判決と混同する)ように作ったのでは?」

と思えてなりません。

 

少なくとも司法試験系では、とにかく知識を増やせばいいというものではありません…“知らぬが仏”です。

知識を増やしていいのは、その“精度”が保てる限度までです。