最近、下記のような質問をいただきました。
「再現答案集の使い方について疑問があります。
中村先生はよく、再現答案集をみて合格ラインを把握しろとおっしゃいますが、再現答案集の信ぴょう性はどの程度あるのでしょう。
例えば、もちろん書いた量で点がつくわけではないのは重々承知しておりますが、民法で3ページしか書いていないので系別2桁の答案や、みたところ出題趣旨をパシッパシッと抑えているのに系別不合格順位の答案があったします。
(使用している再現答案集はTACともうひとつT社のものです。)
この原因は
①再現をかなりいい加減にやって提出したのが採用されている(実際、予備試験論文試験後に私の友人の何名かは謝礼をもらうためだけにいい加減に再現を作って出し、某受験雑誌に参考答案として採用されていました)
②現状、科目別ではなく系別の順位しか出ないため、答案ごとの正確な順位がわからない。例えば民法が散々な出来でもほか2法で神がかり的な得点を叩き出せば系別でも高得点になってしまう。(しかも、採用されている答案の書いた人がバラバラ。系ごと同じ人の全ての答案が載っていれば分析のしようもあるのですが)
ということがあるのかなと思いました。
こういうことを踏まえて、再現答案とどう付き合っていけば良いのか(再現答案をどのよう合格ラインの判定に使えば良いのか)教えてください。」
私も、再現答案の作成状況を実際に見たわけではありませんし、仮にそれを見ることができたとしても再現者の頭・心の中までは分かりませんから、再現答案を“盲信”しているわけではありません。
しかしそれでも、再現答案には、採点実感・出題趣旨と同等以上の価値があると考えています。
まず、皆さんは、予備論文の法律実務基礎科目(刑事)対策やローで、供述の信用性のメルクマールを学んだ(あるいはこれから学ぶ)はずです。
ただ、メルクマールの設定も様々なので、あくまで一例としてのメルクマールに沿って、再現答案という供述(内容の真実性を証明するための供述証拠に当たることは明らかです)の信用性を検討してみましょう。
1.利害関係
ここでは本来、供述者と被疑者・被告人との間の利害関係を検討するのですが、再現答案ではこれを観念できないので、広く“再現答案の信用性に影響を及ぼす利害関係”を検討してみます。
そうすると、ご質問にあった①のケースでは、再現者に詐欺罪が成立しかねませんよね。
受験生の大半は、そのリスク(このようにしてバレる可能性は結構あります)を避けるでしょうから、「謝礼をもらうためだけにいい加減に再現を作って出し」ている可能性は低いと考えられます。
また、ブログ等で自発的に再現答案を公開してくれている方も、後でコメント等により突っ込まれる可能性を考えると、やはり「いい加減に再現を作って出し」ている可能性は低いと考えられます。
2.知覚・記憶条件
知覚・認識の正確性(見間違いや聞き間違いのおそれ)にはあまり問題ありませんが、論文本試験から時間が経つと、記憶の正確性が薄れていきます。
そのため、私は、いつ再現された答案なのかという点に着目して、それに見合った信用にとどめるようにしています。
3.他の証拠・事実による裏付け・符合
これが最も重視すべきメルクマールだと言われていると思います。
他の証拠・事実として最有力なのは、やはり採点実感・出題趣旨でしょう(採点実感の各論的な内容の信用性はやや落ちる…と考えることはできます→司法試験H23公法系第1問の採点実感補足 )。
とすると、再現答案と採点実感・出題趣旨とを照らし合わせる作業が、①再現答案の信用性判断や②科目別の評価を割り出すために最も有用といえます。
また、再現答案相互の比較も有用です。たとえば、かなり上位の再現答案や、かなり下位の再現答案の複数に共通する点が見出せたら、上位や下位になる共通要素となっている可能性が高いといえます。
4.供述内容
TACに提出していただく再現答案には、各所に再現者のコメントを付けていただいています。
そのコメント自体に「ここは何を書いたかあまり覚えていない」といった内容を書いてくれることもあります。その場合、再現答案のその部分はあまり参考にできませんが、あえてそのようなコメントを付けていない部分の信用性は、むしろ高まると考えられます。
そうでなくても、コメントの数が少なすぎるとか、コメントの内容に具体性・迫真性・合理性・自然さ等を欠く場合には、信用性がやや落ちるでしょう。
5.供述経過
再現答案に変遷があるかどうかは、その作成プロセスを見ていない限り分からないので、これはまず使えないメルクマールでしょう。
6.供述態度
上記5と同じです。
…以上をまとめると、
1.詐欺罪に問われるリスク等を避けるため、基本的には真摯に再現答案を作成していただいている可能性が高いものの、ご質問にあった①②のケースも排除できないので、さらに、
2.再現時期
3.採点実感・出題趣旨・他の再現答案との比較照合
4.再現答案に付いているコメントの量と質(具体性・迫真性・合理性・自然さ等)
から、その信用性を適切に判断することは充分に可能だということです。
とはいえ、受験生は、そこまでやる暇があったら、1問でも1回でも多く過去問を解くべきだとは思います。
なので、再現答案にはそこまで信をおかず、3.採点実感や出題趣旨と合わせて、再現答案を“利用する”(ex.良いところを盗む、悪いところは反面教師にする)スタンスが良いと思います。
ご質問ラストの「再現答案をどのように合格ラインの判定に使えば良いのか」という観点で具体化するならば、
・まず、もちろん自力で、本試験とできる限り近い条件下で少なくとも答案構成まではした上で、
・合格ラインギリギリ(その年の合格者数にできる限り近い順位の点数:法務省HPで公表)の再現答案を見て、
・採点実感で示されている「一応の水準」の内容(不良・良好・優秀と比較しないとよく分からない抽象的な表現がされていることも多いです)と照合する
ことをオススメします。
自力で答案(構成)作成→採点実感見る→再現答案と照合の順も否定しませんが、具体的な再現答案のイメージすらない状態で抽象的な採点実感や出題趣旨を読んでも、答案につながる具体的な形でイメージできる受験生はそう多くないと思います(だからこそ、採点実感や出題趣旨を分析するセミナー等の需要があるのだろうと考えています)。
その意味で、採点実感や出題趣旨だけでも足りないのです。
※なお、本記事では、私の感覚をありのままに表現するため、信用性が“やや落ちる”とか“高まる”等と書いていますが、論文答案で信用性を書く(ほぼ間違いなく加点事由にとどまります)ときには、供述の信用性が“ある”か“ない”かの2択で断言してくださいね(cf.『予備試験 4A論文過去問分析講義』の実務基礎科目(刑事)部分)。