ゼミの友人に、「問題文の事情自体に配点・答えがある。」というコンセプトは伝わりにくい、憲法をやった方がより伝わるのではないか、みたいなことを言われ、そうかもしれないと思ったのでやってみます。
記事のタイトル「要件効果で書く憲法」は、合格者講義の企画候補の1つとして考えていたもの。ボツったけど。

題材は、H14-1。講義並みに詳しく説明するととんでもない量になるので、簡略に。
基本コンセプトは、
○問題文の事情自体に答え・配点がある。
○点の取れるところから答案構成する。
○憲法は知識が少ないので特にゲーム・パズル的要素が大きい。知識1(ほぼ条文だけ)・常識1@あてはめ・問題文の事情4・論理4くらいの感覚。
○憲法も当事者・主体確定→生の主張反論→法的構成→あてはめという処理手順を踏む(逆になってるところもあるが)ことで、他科目と処理手順統一。

0.問題文
A市の市民であるBは,A市立図書館で雑誌を借り出そうとした。ところが,図書館長Cは,「閲覧用の雑誌,新聞等の定期刊行物について,少年法第61条に違反すると判断したとき,図書館長は,閲覧禁止にすることができる。」と定めるA市の図書館運営規則に基づき,同雑誌の閲覧を認めなかった。これに対し,Bは,その措置が憲法に違反するとして提訴した。
 この事例に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。

1.生の自由
A市の市民であるBの、A市立図書館で雑誌を閲覧し借り出す自由を侵害し、違憲ではないか

2.結論
(合憲か違憲か、とりあえず直感で)

3.問題文の事情抽出例(生の主張・反論っぽく)
(1)違憲方向(A市の市民であるBの立場から、最大限図々しく)
①もう少年保護なんて言ってる場合じゃないっしょ
②やばいところだけ黒塗りにしたりすればいいじゃん
③市民の税金で作った市立図書館なのに、市民の俺を拒むのかよ
④図書館長Cって何様?おまえが勝手に決めるのはどーなのよ
⑤定期刊行物でも、昔のは他では読めないんだよね

(2)合憲方向(図書館長Cの立場から、最大限図々しく)
①少年を守らねば
②いちいち中身を読んで黒塗りするなんて、やってらんねーよ
③市民の代表(93条)が作った規則(94条)なんだから、市民のおまえがそれにイチャモンつけるのはどーなのよ
④図書館長は、図書館のことを一番よく知ってるんだぞ~
⑤定期刊行物なんだから、他で読めるだろ

結論直前のあてはめで書く、と決めた事情が多い方向に、結論をやや確定。例えば、違憲事情1個・合憲事情2個なら、合憲にしたいなあ、と。

4.人権パターン第1段階:生の自由が憲法上保障されているか?=要件論
(1)違憲方向∵重要な権利
→「出版~その他一切の表現の自由」(21条1項)という要件にあたる
∵出版した雑誌が図書館という公共施設で読めないと、「出版~その他一切の表現の自由」の保障が低下する等
→「これを保障する」との効果発生
(2)合憲方向∵表現の自由よりは重要度落ちそう
→「幸福追求に対する国民の権利」(13条後段)という要件にあたる
∵図書館で読みたい雑誌を読むのは、人格形成に不可欠だから、人格的生存に不可欠等
→「公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」との効果発生
※この段階でも、問題文を使って具体的に書けば、点稼げる。cf.出題趣旨

5.人権パターン第2段階:どの程度「保障」「尊重」されているか?=効果論
(1)違憲審査基準選び
3.であてはめで書くと決めた事情をあてはめやすい違憲審査基準を立てる。
違憲にしたいなら厳しく、合憲にしたいなら緩くが一般原則。
具体的には、例えば、3.(2)①は、目的正当でも重要でも肯定できるし、3.(1)②はLRAの手段部分にあてはめやすい、とか。
その他は、関連性基準が使いやすい場合が多いと思う。違憲にしたいなら実質的関連性(その手段じゃなきゃ目的達成不可と言えるほどすごく効果的)、合憲にしたいなら合理的関連性(その手段なら目的達成にプラスになる)を使いたいところ。
こういう思考をするためにも、基準の厳緩のランク整理・どういう事情にはどういう基準が使いやすいか等を、過去問検討を通して自分なりに確立しておいた。
(2)理由づけ
○違憲方向(審査基準を厳しくする方向)
・生の自由の性質(精神的、自己実現・自己統治、市立図書館の公共性等)
・3.(1)①~⑤の事情※
○合憲方向(審査基準を緩くする方向)
・生の自由の性質(自己統治弱い、図書館は元々なかった、地方自治に服する等)
・3.(2)①~⑤の事情※
※規範定立過程でも、問題文の事情を使って点稼ぐ。ただ、抽象的な規範定立過程なので、できるだけ抽象化した方が無難だと思う。
また、問題文の事情を、あてはめ事情と規範定立事情に分けてかぶらずに書いた方が、点稼ぎとしては合理的。あてはめと規範定立の両方に配点がある、と見るのが自然だと思う。
○具体例(厳格合理性基準にしてみる。)
4.で21条1項で保障しておいて、そのままいけば精神的自由だから厳格な基準になりそう。
しかし本問では、自己統治的な要素が弱い。
さらに、3.(2)③市民の代表(93条)が作った図書館運営規則(94条)に基づく処分に対しては、市民が図書館で雑誌を閲覧し借り出す自由の保障は弱まる。(A・Bといった名前を書かないことで、少し抽象化したつもり)
よって、厳格性を若干緩め、厳格合理性。具体的には~。
という感じ。
厳しくする方向の要素を1つ書いて、緩める方向の要素を2つ書けば、基準を1ランク緩められる、という感覚。

6.人権パターン第1段階と第2段階のつなぎ
(1)「公共の福祉」
これは寝てても書けるくらいに準備しておくべきだが、ちょっと薀蓄を。
「『公共の福祉』に基づく必要最小限の制約に服する。(13条後段)」等と書くと思うが、なぜこう書くのか。
→13条後段の文言にあてはめただけ。
「生命、自由、幸福追求に対する国民の権利」は、包括的・総則的人権規定だから、生の自由が憲法上保障される人権としたら、それはこの要件にあたると言える。
すると、「公共の福祉に反しない限り~最大の尊重を必要とする。」という効果が発生する。これを反対解釈気味に読むと、上述の決まり文句になると言える。
(2)法規→処分パターン
また、「立法その他の国政の上で」とあるので、「立法」つまり法規の合憲性や、「その他の国政」たる行政処分の合憲性が問題になる。
本問でも厳密に言えば、少年法61条・A市図書館運営規則・図書館長Cが閲覧を認めない処分と3つあるが、まず第一に処分を書くべき。なぜなら、問題文の事情を使いやすく、点を稼ぎやすいから。Bとしても、まず閲覧を認めてほしいというのが最大の望みだろうし。
その上でさらに、法規の合憲性まで書く余裕があれば加点として書いてもいい…と言えるのは、充分に書き方(法規の合憲限定解釈に基づいて処分の違憲審査基準を定立し、あてはめる等)を確立し、かつ筆の速い人のみ。
書き方が難しく分量もかなり増えるので、論理矛盾・時間切れ等のリスクが高い反面、皆ほとんどできないので書かないリスクが低いから。
それよりは、処分一本に絞ってあてはめで問題文を使いまくった方が、点稼ぎとして合理的な場合が多いと思う。


以上、結論・あてはめからずっと逆算していく等、かなりアクロバティックな手順を踏んでいた。
とにかく「問題文の事情自体に配点・答えがある」「点の取れるところから答案構成する」というのを徹底した結果、こんな感じに。
また、憲法は自分で論を組み立てる自由度が高いので、破綻なくやるためにも、逆算していくとリスクが低くなると思う。
ただ実際には、完全な逆算ではなく、両面から考えたりもした。