第1.乙の罪責
1.乙が、丙の使者から80万円を受領した行為につき、受託収賄罪が成立しないか。(197条1項後段)
2.(1) まず、乙はB市総務部長という「公務員」である。
  (2) また、乙はB市の広報誌の印刷発注の職務に従事し、これについて便宜を図ってほしいとの甲のメッセージの趣旨を理解して了承しているから、「その職務に関し」甲の「請託を受けた」といえる。
(3) そして、現金80万円という「賄賂」を「収受」している。
3.よって、同罪が成立する。
第2.丙の罪責
1.丙が使者をして、乙に80万円を届けた行為につき、上記乙の受託収賄罪と対向犯となる贈賄罪(198条)は成立しない。
  なぜなら、乙は甲の「請託を受け」ており、丙の請託を受けたとは思っていないからである。
2.よって、丙は不可罰である。
第3.甲の罪責
1.甲が、丙の使者を介して乙に80万円を届けた行為について
 (1) 前述乙の受託収賄罪と対向犯となる贈賄罪(198条)が成立しないか。
 (2) この点、かかる間接正犯的形態でも、「供与」にあたると解する。
   なぜなら、これでも同罪の保護法益たる、公務の公正とそれに対する国民の信頼を害しうるからである。
 (3) よって、同罪が成立する。
2.甲が丙に対し、乙に80万円を届けるように言った行為について
 (1) 詐欺罪が成立しないか。(246条1項)
(2) まず、丙という「人」に、乙が丙に便宜を図ってくれるという虚偽の事実を告げて、錯誤に陥らせているから、「欺いて」といえる。
  これにより丙は、80万円という「財物」を、甲ではなく乙に届けているが、前述のように甲乙間には共通の利害関係があるので、これも「交付」といえると考える。
  (3) よって、同罪が成立する。
3.甲が丙に、80万円の弁償を断念させた行為について
 (1) 2項恐喝罪(249条2項)が成立しないか。
 (2) まず甲は、丙という「人」に対し、乙に80万円を渡して道路工事を受注しようとしたことを公表するという害悪を告知し、丙を反抗抑圧に至らない程度に畏怖させ、80万円の弁償を断念するという財産上の利益処分を要求している。よって、「恐喝」はある。
   その結果、丙は80万円の弁償を断念しているから、甲は「財産上不法の利益を得」たといえる。
 (3) よって、同罪が成立する。
4.罪数
  まず、詐欺罪と二項恐喝罪は、実質的に同一の経済的利益に向けられているから、後者に包括されると考える。
  これと贈賄罪とは、併合罪となる。(45条前段)
                              以上