第1.乙の罪責
1.まず乙は、A社の倉庫という「建造物」に「侵入」しているので、建造物侵入罪(130条前段)が成立する。
2.(1) 次に乙は、A社の絵画を持って倉庫を出たところでBに発見され、逃げるためBに対し暴行を加え、その後Bは死亡している。
この行為につき、事後強盗致死罪(240条後段)が成立しないか。
(2)ア.まず、A社の絵画という「他人の財物」を手に持って倉庫を出ている(「窃取」)から、「窃盗」罪(235条)の実行の着手がある。
イ.また、乙は警備員Bの「逮捕を免れ」るため、その腹部を強く蹴り上げるという反抗抑圧に足る「暴行」を加えているから、「強盗として論ずる。」(238条)
ウ.そして、Bの死亡結果は丙の暴行によって生じた可能性もあるが、後述のように丙の暴行については乙丙の事後強盗罪の共同正犯(238条・60条)が成立するので、いずれにせよ死亡結果を乙に帰責してよい。
(3) よって、乙には事後強盗致死罪が成立する。
3.上記2罪は、罪質上通例手段・結果の関係にあるので、牽連犯となる。(54条1項後段)
第2.丙の罪責
1.丙は、乙の逃走を助けるため、乙と意思を通じた上、Bの腹部を強く蹴り上げるという反抗抑圧に足る「暴行」を加え、その後Bが死亡している。
この行為につき、事後強盗致死罪の共同正犯(240条後段・60条)が成立しないか。
2.(1)ア.まず、「窃盗」は一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係たる特殊な地位であるから、事後強盗罪は「身分」犯(65条)と解する。
イ.また、事後強盗罪は財産犯だから、窃盗犯人にしか犯せない真正身分犯と解する。
ウ.すると、65条1項の問題になると文理上解される。
そして、非身分者でも身分者に加功して法益を侵害しうるから、「共犯」には共同正犯も含まれると解する。
エ.よって、丙の暴行については、乙と「共同して~実行した」(60条)といえ、事後強盗罪の共同正犯までは成立する。
(2)ア.しかし、B死亡の結果は、丙が乙に出会い事情を認識する以前の、乙の暴行により生じた可能性がある。
そこで、乙の暴行についても、「共同」「実行」したといえるか。
イ.そもそも、一部実行全部責任(60条)の根拠は、共同行為者が相互に他人の行為を利用補充することで、一体となって犯罪を実現した点にある。
そして、既になされた先行者の行為について、後行者との相互利用補充関係は認められないのが原則だが、後行者が先行者の行為と結果を認識し、これを利用する意思で後行行為をしたならば、先行者との相互利用補充関係があるといえる。
とすると、この場合には「共同」「実行」したといえる。
ウ.本問では、丙は乙の行為と結果を認識しているが、これを利用する意思までは見出せない。
エ.よって、乙の暴行についてまで「共同」「実行」したとはいえない。
3.したがって、B死亡の結果を丙には帰責できず、丙には乙との事後強盗罪の共同正犯が成立するにとどまる。
第3.甲の罪責
1.まず、甲は乙に対し、A社の倉庫に侵入することを唆しているので、建造物侵入罪の教唆犯(130条前段・61条1項)が成立する。
2.(1) 次に、甲が乙に窃盗罪(235条)を教唆した結果、乙は事後強盗致死罪を実行している。
ここで、甲に事後強盗致死罪の教唆犯(240条後段・61条1項)が成立するか。甲に同罪の教唆故意(38条1項)があるかが問題となる。
(2)ア.まず、甲はA社の倉庫には何も保管されていないと思って、窃盗罪を教唆している。かかる未遂の教唆に教唆故意が認められるか。
肯定する。
なぜなら、教唆犯の本質は正犯の実行行為を通じて法益侵害する点にあり、正犯が実行行為に出ることを認識していれば足りるからである。
イ.(ア) 次に、甲は窃盗未遂罪(243条・235条)の教唆故意で、事後強盗致死罪の教唆の結果を生じさせている。かかる抽象的事実の錯誤をどう処理するか。
(イ) そもそも故意責任の本質は、規範に直面したのにあえて行為に出たことに対する重い非難にある。
そして、規範は構成要件の形で与えられているから、構成要件間に重なり合いがあれば、その限度で故意責任を問える。
(ウ) 本問で、窃盗未遂罪と事後強盗致死罪は、窃盗未遂罪の限度で重なり合いがある。
(エ) よって、窃盗未遂罪の教唆犯が成立するにとどまる。
3.上記2罪は、1個の行為でなされているから、観念的競合となる。(54条1項前段)
以上
1.まず乙は、A社の倉庫という「建造物」に「侵入」しているので、建造物侵入罪(130条前段)が成立する。
2.(1) 次に乙は、A社の絵画を持って倉庫を出たところでBに発見され、逃げるためBに対し暴行を加え、その後Bは死亡している。
この行為につき、事後強盗致死罪(240条後段)が成立しないか。
(2)ア.まず、A社の絵画という「他人の財物」を手に持って倉庫を出ている(「窃取」)から、「窃盗」罪(235条)の実行の着手がある。
イ.また、乙は警備員Bの「逮捕を免れ」るため、その腹部を強く蹴り上げるという反抗抑圧に足る「暴行」を加えているから、「強盗として論ずる。」(238条)
ウ.そして、Bの死亡結果は丙の暴行によって生じた可能性もあるが、後述のように丙の暴行については乙丙の事後強盗罪の共同正犯(238条・60条)が成立するので、いずれにせよ死亡結果を乙に帰責してよい。
(3) よって、乙には事後強盗致死罪が成立する。
3.上記2罪は、罪質上通例手段・結果の関係にあるので、牽連犯となる。(54条1項後段)
第2.丙の罪責
1.丙は、乙の逃走を助けるため、乙と意思を通じた上、Bの腹部を強く蹴り上げるという反抗抑圧に足る「暴行」を加え、その後Bが死亡している。
この行為につき、事後強盗致死罪の共同正犯(240条後段・60条)が成立しないか。
2.(1)ア.まず、「窃盗」は一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係たる特殊な地位であるから、事後強盗罪は「身分」犯(65条)と解する。
イ.また、事後強盗罪は財産犯だから、窃盗犯人にしか犯せない真正身分犯と解する。
ウ.すると、65条1項の問題になると文理上解される。
そして、非身分者でも身分者に加功して法益を侵害しうるから、「共犯」には共同正犯も含まれると解する。
エ.よって、丙の暴行については、乙と「共同して~実行した」(60条)といえ、事後強盗罪の共同正犯までは成立する。
(2)ア.しかし、B死亡の結果は、丙が乙に出会い事情を認識する以前の、乙の暴行により生じた可能性がある。
そこで、乙の暴行についても、「共同」「実行」したといえるか。
イ.そもそも、一部実行全部責任(60条)の根拠は、共同行為者が相互に他人の行為を利用補充することで、一体となって犯罪を実現した点にある。
そして、既になされた先行者の行為について、後行者との相互利用補充関係は認められないのが原則だが、後行者が先行者の行為と結果を認識し、これを利用する意思で後行行為をしたならば、先行者との相互利用補充関係があるといえる。
とすると、この場合には「共同」「実行」したといえる。
ウ.本問では、丙は乙の行為と結果を認識しているが、これを利用する意思までは見出せない。
エ.よって、乙の暴行についてまで「共同」「実行」したとはいえない。
3.したがって、B死亡の結果を丙には帰責できず、丙には乙との事後強盗罪の共同正犯が成立するにとどまる。
第3.甲の罪責
1.まず、甲は乙に対し、A社の倉庫に侵入することを唆しているので、建造物侵入罪の教唆犯(130条前段・61条1項)が成立する。
2.(1) 次に、甲が乙に窃盗罪(235条)を教唆した結果、乙は事後強盗致死罪を実行している。
ここで、甲に事後強盗致死罪の教唆犯(240条後段・61条1項)が成立するか。甲に同罪の教唆故意(38条1項)があるかが問題となる。
(2)ア.まず、甲はA社の倉庫には何も保管されていないと思って、窃盗罪を教唆している。かかる未遂の教唆に教唆故意が認められるか。
肯定する。
なぜなら、教唆犯の本質は正犯の実行行為を通じて法益侵害する点にあり、正犯が実行行為に出ることを認識していれば足りるからである。
イ.(ア) 次に、甲は窃盗未遂罪(243条・235条)の教唆故意で、事後強盗致死罪の教唆の結果を生じさせている。かかる抽象的事実の錯誤をどう処理するか。
(イ) そもそも故意責任の本質は、規範に直面したのにあえて行為に出たことに対する重い非難にある。
そして、規範は構成要件の形で与えられているから、構成要件間に重なり合いがあれば、その限度で故意責任を問える。
(ウ) 本問で、窃盗未遂罪と事後強盗致死罪は、窃盗未遂罪の限度で重なり合いがある。
(エ) よって、窃盗未遂罪の教唆犯が成立するにとどまる。
3.上記2罪は、1個の行為でなされているから、観念的競合となる。(54条1項前段)
以上