ー母ー
こうなると、思っていた...
きっと、最後には翔さんも頑固な智に負けちゃうと...。
どうして…
私はあの子を健康に産んでやれなかったのか...。あんなに穏やかな性格で…誰からも慕われて息子として満点な智
私は...あの子にどれだけの試練を負わすのか
智からも自分の弱さからも逃げた私
自分の全てを受け入れて前を向いた智。
普通に考えれば...こんな母親、許されないのに、智は全てを許してくれた
そして、また...父親をも許してしまうのか...
智を連れてあの人から逃げたあと...
再婚したと人伝に聞いた。
"自分だけ…"
そんな風に恨めしく思った事もあった。
どこかで、あの人が不幸になればと願った事だって...。
でも...、今
自分が満たされて穏やかな毎日を過ごしていると、不思議と全てを柔らかく受け止める事が出来ている
ああ...、智がこんなに優しいのは、
それに勝る優しさの中で生きているからなんだ...と、気が付いたのはいつだったか...
だから...あの人が新しい家族と幸せにしているならいいな...。そう思えるまで自分は満たされ穏やかに過ごしていたのに
連れ合いを亡くし、息子は病に侵され
常識的に縋れないであろう智にまで懇願に来た心情を察すると他人事ではない...
私だって智や海斗の為なら
地べたに這いつくばって
どんな相手にでも頭を下げる覚悟はある
それなのに…
醜い私...
結論を出したあの子達に
心から笑顔を見せてやれなかった
この感情の名前は知っている...
智にこれ以上、危険を冒して欲しくない
その気持ちの裏側で堂々と主張するのは
醜い感情...
智が...あの人を許す事が
許せないだなんて...
まるで...私は
地の果て
暗黒に住まう鬼だ...