海「ぉちそーさまぁでしたっ!」

智「はい。美味しかったね?」

海「うん!」


ベビーチェアから下ろしてやると
こぼしてしまったご飯粒を拾って俺の掌になすり付けてお気に入りの陽だまりにコロンと転がった


智「翔君、足りる?」

翔「(笑)、大丈夫。智君は?唐揚げ食べる?」

今、正に俺の口に運ばれる寸前の最後の一個を掲げて聞いてみる

智「ううん…お腹いっぱいだよ(笑)
あったかいお茶…、それともコーヒーにしよっか?」

翔「そうだね。俺がいれるから座ってて」

無事に俺の口に収まった唐揚げを急いで飲み込んで腰を上げた

智「大丈夫。僕がするよ。もう、熱もないし、なんともないから」


智君は、昔...俺の部屋から持って出たコーヒーミルで丁寧に豆をひいてくれた。

コリコリとリズム良く静かに響く音。
一人ではコーヒーも飲まなかったと言っていた。海斗がお腹に宿っていたから、どうしても飲みたい時はカフェインレスのインスタントコーヒーにしてたらしい。そもそもコーヒーに拘りがあったのは俺の方で...。

それなのに、どうしてわざわざミルを持って出たのか聞いた事があった…

その問いに『僕が使った物を他の人に使って欲しくなかった』

そう答えた智君。


海斗と三人、幸せな今でもあの頃の自分の情けない言動に猛省する。

...伏せた目は、まだどこか気怠そうで...智君の中の "何か" が、そうさせているのだろう...

海斗はお気に入りの場所で
お気に入りの絵本を並べてお利口にしている


コーヒー豆にいい香りが微かに届いた…


これから、智君にどんな風に尋ねようかと悩んでいた頭が芳しい香りで少し和らいだ