海「うっうっうわぁ〜〜んえーんえーん

翔「どうした!海斗!!」

滅多に聞くことのない海斗の大きな泣き声に仕事の手を止めリビングへ飛び込んで来た翔。

海斗の目線に合わせてしゃがみ込む智君のそばに…え…?黒い塊…?

…と、ハサミ…


黒い物は…髪の毛?
ハサミは…工作用のハサミ。


翔「何があったの?」

智「…………」

海「グスッ…ヒック…ヒック…」

海斗を抱っこしてやると
また、声を上げて泣き出した…

よく見ると…海斗の前髪が落ちている髪の毛分、ぱっかりと隙間が…

翔「智君?何があったか聞かせて?」

智「…カイが…髪を…自分で……」

それっきり両手で顔を覆い項垂れてしまった。


智「…カイ…ごめんね…怒って…ごめん…」

そう言って…寝室へ行ってしまった



*・゜゚・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゚・*


海斗に説明を求めるには無理がある…

智君の一言から何が起きたのか想像してみる。

海斗は左利き。
智君は使う物によって左だったり右だったりするけど俺は完全な右利き。
智君から継がれたのだろう海斗には左利きの素質がある。無理には矯正するつもりはないのだけれど、習字で筆を使うのに困らないようにと字を書く事だけは右に誘導しているのだけど、それも海斗が嫌がるなら無理にはさせない。

最近、色んなことに興味を持ち始めた海斗に智君は見守りながら危なくない物は使わせていた。

その中には、子供用の工作のハサミもあった。
俺は左利き用が使い易いんじゃないかと言ったけど、智君は

"左利き用って案外使うの難しいんだよ"

それに…

世の中の9割が右利きだという。
殆どの物が右利き用に作られている。
その中で、左利きでも右利き用に作られた物を柔軟に使えて "慣れておかなきゃいけない" のだそう…。だから、左利きには器用な人が多いのかもしれない。

海斗の使う物は決して適当にじゃなく、ただ高価な物を買うのではなく使い易い安全な物を購入する智君が選んだ海斗の両利き用のハサミ。
初めてのハサミは両利き用にしたようだ。


海斗の切られた前髪。
右上に向かって切ったのが分かる。

どこまで通じるかは分からないけど、いつも智君がしているように、俺も海斗を膝に抱っこして向かい合わせに座る。

翔「なぁ、海斗?どうして智君は怒ったのかな?」

海「ヒック…ヒク…ゥ…ぅ〜」

翔「ほら、もう泣かなくていいよ。きっとな、海斗がハサミで怪我でもしていたら…そう心配だったから怒ったんじゃないかな?」

いくら子供用の先が丸いハサミだと言っても…目でも突いていたら…考えただけで血の気が引く


翔「智君はね、海斗の事が凄く…一番、大切なんだ…だから、ね。
心配バケツが急にいっぱいになって、あふれちゃって
海斗が凄く大事なんだよと一生懸命、伝えたかっただけなんだよ…」