「有り得ない…おい、…そんなワケあるか」
ファンタジー…です…最初から全てが作り話ですから。全て全て妄想ですから。
僕、さとちゃんのお腹に行く時に神様に聞かれたんだ…
「君は男の子と女の子、どっちになりたい?」って。だからね、
「男の子にして下さい」って答えたんだよ。
さとちゃんはお母さんだけど男の子でしょ?
おんなじ男の子の方がきっと、さとちゃん困んないかな…って思ったんだぁ
お腹の中でね、ずっとさとちゃんのお歌 聞いてたんだよ。カラスのとかシャボン玉のとか。
すご〜く優しい声でね、僕は良く眠れたよ。
でもね、時々…泣いてたんだ
寂しそうに…苦しそうに…ずっと、翔君のお名前呼んでた…だからね、そんな時は僕がキックとパンチするんだ…そしたらね、"んふふ" って笑ってお腹を撫でてくれたんだ
お腹の中はね…すごーく寒くなったり
狭ぁ〜くなったり
あつ〜くなっちゃったり…
そんな時はいつも松岡先生や松本先生が
大っきな声でさとちゃんの事、呼んでた
目を開けろ!シッカリしろ!って。
二人は僕にも何回も言ってたよ
「頼むからもう少し、お腹の中に居てくれよ」って。
だから、僕…ぎゅ〜って力いっぱい掴まってたんだよ。
さとちゃんのお腹から出て来てからは神様とお話は出来なくなっちゃったけど、僕はちゃんと皆んながお話してる事は何となく分かるの。
僕が産まれて、オギャーって泣いた時、
松岡先生も松本先生も看護師さんも、泣いてた
"よく産まれて来たな" "ありがとう"
って言ってくれた。あったかいふわふやのタオルに包まれてさとちゃんの側から離れる時、
さとちゃんも言ったんだ
「ありがとう…ごめんね…ごめ…ん」って。
僕は、みんなが喜んでるのに、どうしてさとちゃんは悲しそうに謝るのかなって不思議だった。
そのすぐ後、先生達が大っきな声で
「諦めるな、戻って来い!」
「赤ん坊を一人にしたくないだろ!」
「今日から家族が出来たんだぞ!」
「お前の…お前の家族が出来たんだ!」
って…なんだか怒ってるのかな?って悲しくなっちゃった…
でも、みんなが僕に怒っているんじゃないのは分かってた
だって、神様が最後に言ってくれたの
「君は誰よりも愛されて守られて産まれるのだから…沢山の人にお返しをするんだよ」って。
だから、神様が言ったように、僕はさとちゃんを、いっぱい幸せにしてあげるって決めてたのに
なかなかさとちゃんは僕に逢いに来てくれなかった…その代わり先生や看護師さんが抱っこやミルクをくれたりオムツを代えてくれた
でも…やっぱり
僕はさとちゃんに早く逢いたかった…
みんなが早くさとちゃんに逢いたいって思ってるのに
さとちゃんが…なかなか起きないのは
もしかしたら
僕が産まれたせいなのかな…って
思ってた…