順調な経過の智君。

もう、自分の足で歩いているし早く家に帰りたくて仕方がない様子だ




智「翔君…ありがとう」

翔「どうしたの…改まって(笑)」

智「…もし、翔君があの日逢いに来てくれていなかったら僕は手術は受けてなかったと思うんだ。
城島先生を信じていないとかじゃなくて…。
きっと…音のない生活に慣れて聴きたくない事から簡単に目を背けて都合良く生きていけたから。
でも…カイの声が聞きたかった…沢山歌を歌ってあげて本を読んであげたかったんだ…」


昨日、眠くてグズる海斗に唄ってやっていた声が…童謡なのに俺が聴き入る程のクオリティで…
智君自身が歌う事が楽しいみたいだ。


さっきは絵本を読んでやっていたんだけど…
俺が読み聞かせしてる時は直ぐに他所に意識が行くのに智君が読むと同じ絵本なのに海斗は聞き入っていた。

声の質かなぁ…

ずっと聞いていたい…なんて言うんだっけ…
1/f…ゆらぎ…とかなんとか…言うんじゃなかったかな…


海斗も智君に逢いたがるから毎日、二人でお見舞いに来ている。
退院の日を決めるにあたり城島先生に呼び出された。


茂「どうや?さとちゃんの様子」

翔「毎日が楽しいみたいです(笑)」

茂「良かったなぁ。それでも左右の聴力に差があるからな目眩や頭痛、肩こりなんかが出て来るかもしれんからな…あの子は我慢する子やから櫻井君が気ぃ付けてやってな」

翔「分かりました」

茂「それで、退院やけど明後日でどうやろ?」

翔「はい!!ありがとうございます!」

茂「ははっ…ええ返事や。病院の外の音にまだ馴染みがないからな、充分気を付けてやってな。
健聴者でも最近の静かな車にはビックリする事があるやろ?音もなく鉄の塊が直ぐそこに近付いて来るんやから(笑)」


確かにそうだ…智君が失聴する前にはなかった音もあるだろうし…

気を付けてやらないと。


翔「あの…電話とかイヤホンとかは?」

茂「本人にも言うけどな、電話で会話するのは問題ない。ヘッドホン、イヤホンはあんまりお勧め出来んな」

城島先生と話している間、何となく嫌な感覚が...

智君に何かがあったというのではなさそうだけど、なんか...言葉に出来ない嫌な感覚...


その原因が俺の母だと知ったのは...


「ねぇ、可愛いわね、この子」とメッセージを付けて画像を送り付けてきたから…