夜の病院が静かなのは昨日一晩でよく分かっていたけど…
今は規則正しく鳴る医療機器の機械音が静寂な中で、なんだか安心させてくれる。

智君が生きているという音。


海斗は今日も相葉君が連れて帰ってくれたんだけど、ご飯を食べてお風呂に入っていざ寝ようと布団に入ってから怪獣のように泣き喚き、相葉君のお母さんでも手が付けられない暴れようだったそうで…
まぁ、小さな海斗が両手足をバタバタさせて泣き叫んでいるだけで可愛いものなのだけれど
「あとちゃん、あとちゃん」と泣く姿に大人の方が根負けして連れてきてくれた。
海斗にとって2日も智君と離れて寝るのは確かに酷だ…
城島先生に頼み込んで海斗のお泊まりを許してもらった。

今は智君の隣でスヤスヤと眠っている。
寝相は良いとはいえ海斗の手が智君の頭に届かないように目を離さずにお母さんと交代で見ている。






母「本当に私までここに居ていいのかしら…」

翔「お母さんが苦痛でなければ是非いて下さい。と、言うか居て頂かないと智君が起きた時、悲しみます」

母「…ありがとう…。こうして、智にまた会えるなんて…」

翔「お礼を言うのは僕の方です。体調を崩しておられるそうですね…なのに、血をわけてもらって…」

母「…こんな事でしか智を助けてやれない…情けない親です…体調は…大丈夫。ただの "歳のせい" だから(笑)」

ずっと、難しい顔していたお母さんが少し笑った。その顔が智君によく似ている。

翔「智君は…どんな子供でしたか?」

母「小さな頃から…静かで…いつも穏やかに笑っている子でした…。主人が出て行って2人きりで慎ましく、それでも幸せに暮らしていたんです…」


智君はある日、初潮を迎えた。
それまで、お母さんは、背が高い人や太った人、丸顔や面長…人それぞれ個性があるように智君の身体も個性と同じようなものだと考えるようにしていたそうだ。
実際、智君が女性らしく振舞う事もなかったし息子として普通に育ててきた。
けれど…知識の無かった智君が出血した事を病気と思い慌てる姿を見て、それまで幾重にもオブラートに包んで目を逸らし続けていた事実を目の当たりにして、何かが音を立てて崩れ始めたそうだ…
それからは…智君をまともに見る事も出来なかった。
そして…智君がお父さんを想像して描いていた絵を見て勘違いし完全に崩壊した
その結果、悲しい事故が起きた。



翔「お母さん。もう過去の事は言うのやめましょう?これからを楽しみませんか?智君がお母さんの助けを借りて海斗を産んでくれた。
お母さんのお陰で耳も聞こえるようになった…。
もちろん医師達の尽力のお陰でもありますが。
僕はこれ以上の母親の愛情はないと思います。今、智君の身体の中にお母さんの血が流れている…感謝でしかない…」




智「…母さんが…僕を二度も助けてくれたんだね…」


智君はシッカリと目を開けてお母さんの目を見ていた。