翔「あります。自信も覚悟も」
潤「言うのは簡単ですよね…
雅紀は…雅紀だけじゃない…俺と、松岡先生以外の人達は…知らないから。貴方の事を受け入れるでしょうが...
俺はキツイ事を言わせてもらう。智が…どんな想いで、どれほどの覚悟でカイを産んだか…産むという決意をしたか…それを、知っているのは…あの手術室にいたスタッフだけだ…」
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松岡先生は最初に智を診察した時の事を今も鮮明に覚えていると話してくれた。
智の口から最初に出た言葉が
「いくらくれるの?」
だったそうだ。
普通なら…何をされるか怯え、そして納得して研究に協力などなかなかしないだろう。
でも…智はお世話になっている住み込み先の夫婦にお返しがしたい一心でどんな研究にも嫌と言わずに応じたらしい。
その中には、女性としての性感帯を詳しく調べる事もあった…性行為。
それを何台ものカメラで撮影された。
普通なら…逃げ出すだろう…。
でも…智はお金の為にやりきった。
今となっては、その時のデータが海斗の妊娠出産には役に立ったけれど。
ある時、松岡先生は聞いたそうだ
『嫌じゃないのか?』と。
ーー僕には何もない。でも、僕のこの身体がお金になるなら…店長達の役に少しでもたてるなら、僕は生まれてきた事を…僕を産んでくれた母さんに感謝できると思うからーー
誰の所為でもない…
智の、母親の、父親の…誰の所為でも。
どうだろう…
誰のせいでもない事だが誰が一番辛い想いをしたのだろう…
そんなの…智に決まってる
音を奪われて
母親に捨てられ
でも…
困難でしかないだろうに、愛する人の子を宿した事にただ喜びを感じた...もう貴方はそばに居ないのに…
たった一人…命懸けで海斗を産んだ
手術中…俺達はもうダメだと…
赤ん坊を抱かせてやれない…と、何度となく頭をよぎった。
なんとか心臓を止める事なく手術室から出す事が出来たが、何日も目を覚さず…海斗の出生届の提出期限ギリギリで漸く目を覚ました智に…俺は
恐らく初めて医師として本当に命の尊さを教えられたんだ…