潤「智はね…妊娠が分かった時、嬉しいと思った反面…不安だった
勿論、身体の事もだけど…。
妊娠中に何かあれば…あぁ、何かって言うのは命を脅かすような何かね、それが起きた時…智にどうするかを尋ねたんだ。
残酷な選択…を。
なんて答えたと思う?
"自分の命を救う為に赤ちゃんを諦めたくはない"
"死ぬなら…一緒がいい。大切にお腹の中に置いたまま一緒に逝く"
"だから…僕だけを助けたりしないで"
そしてね、胎児が1000gを越えた頃からは
また違う不安に怯えた…
“もし自分に何かあった時…赤ん坊が一人ぼっちになる…“
自分を助けるために胎児を犠牲にする事は許さない...でも、胎児を助ける為に自分の命を後回しにしてくれていい、と言ったけど。赤ん坊を一人にしたくはないとずっと怯えていた...
1000gを越えれば外に出て来ても助かる率は高い。問題なく成長していく子供も沢山いるからね。お腹の子が順調に育つにつれ智は不安に潰されそうになっていた...
智はね…
一人が寂しかった…のだと。
子供の頃、誰にも愛されずに、"居るけど居ない母親" との生活は寂しかった…。
それでも、その人はご飯を用意して学校に通わせてくれた "母さん" と呼べる人だった。
もし…自分が死んだら…赤ちゃんが本当に一人になってしまう…
万が一…自分が居なくなった時の海斗の事を一つの取りこぼしも無いように調べて準備していたよ」
勿論…何かあれば…智の周りの人間は赤ん坊を施設に預けたりせずに育てていったと思うよ…
僕も僕の両親もそのつもりをしていたよ。
でもね…智は…ただの一度も誰かに助けを求めた事も、悲しくて怖くて泣いた事も無かった…
…一人で泣いて一人で怯えていたんだ
女性の出産でも大変なのに智の場合は女性としての器官は全て未熟だったからね…本当にどうなるか予想が付かなかった…
…あぁ
この話は長すぎて今は無理だ…とにかく…
妊娠・出産・育児…どれも智にとっては命がけ。
それを分かって欲しいんだ…
自分の命をかけて産んだカイが…傷付くような事が有れば…、智だけじゃなく…この親子に関わる全ての人が全力で守る。
どんな手を使っても。
貴方には…ありますか?
この二人の親子を泣かさない覚悟。
幸せにする自信。」
松本さんは眠る二人を見ながら力の入った目で俺に向き直った
「ないのなら…お帰り下さい。
もし、貴方が今ここからお帰りになっても、
誰も貴方を責めたりはしない。
貴方のそばで二人が悲しむくらいなら、最初から関わらず知らぬ顔をして…
帰っていただけませんか?」
松本さんの言いたい事は分かる
でも、俺は引かない。
智君が…まだ俺を好きだと言ってくれるなら
俺も…
命懸けで…
二人を幸せにしてみせる。