…ニノが…?

僕を探してる…?


どうして?
最後の仕事は無事に出版されているのを確認したから不備があったわけじゃないだろうし…それも2年も前の事だし。
著作権とか難しい事で何年も前の物で揉める事はあるらしいけど…僕の挿絵は完全にオリジナル。

それに…もし法律に触れるような事ならいくら身を隠しても見つかるはず…

なんだろう…


不安もあるけど…

少しだけ、嬉しいなって思う。
だって…
僕の事を探してくれている人がいるなんて…
どんな理由か分からないけど…。


意識を完全に持っていかれてカイから目を離してしまっていた…

ベンチに座っている僕の膝をバンバンと叩かれて我に帰る。




「ねぇってば!!!」

智「‼︎‼︎‼︎‼︎…」

「赤ちゃん、泣いてる!!ねぇ!赤ちゃん!泣いてるよっ!!」

智「ぁ……」

僕は女の子にごめんなさいと頭を下げた。

カイが泣いてるのに気付いてあげられなかったなんて…シッカリしなきゃ…

僕と一緒にベビーカーを覗き込む小さな子に

"ありがとう" と囁いた。

すると女の子は

"どういたしまして!"

元気にそう言ってお母さんらしき人の元へと走っていった。


ツインテールの元気な女の子。
何かをお母さんを見上げて話してる。
振り返って僕の方を見て大きく手を振ってくれた。

僕も手を振りながらお母さんに頭を下げた。
そしたら…ニッコリ笑って胸の前で手を開き大きくゆっくり左右に振ってくれる。

もしかして…

僕は左手の甲から右手をタテに垂直に上げてみる

“あ、り、が、と、う"

お母さんと女の子は

小指を顎に当てトントン

"ど、う、い、た、し、ま、し、て"


あのお母さんも…

だから、カイが泣いているのを知らせてくれた女の子は僕の目を見てゆっくりと大きく口を開けて知らせてくれたんだ…

僕は…嬉しかった…

耳が不自由なお母さんの元で、あんなに優しく弾けるような笑顔が育つんだ…
お父さんが健聴者なのかもしれないけれど…でも、いまこの時はあの子はお母さんと過ごしている…とても幸せそうに笑って。

カイは僕の元に生まれてきて幸せと思ってくれるのか…せめて耳だけでも治るなら…
そう悩んでいたんだけれど…

このままでも…いいのかもしれないと思い始めていた…