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やっぱり…何かあったんだ…

どうして、もっとしつこく聞いてやらなかったんだ…自分から悩みを打ち明けるような人じゃないのを分かっていたのに…

大野さんに次の仕事を依頼しようとメールをした。

でも、そのメールが送信エラーになってしまう。


口の動きで大概の事を読み取れる大野さんとはビデオ通話で打ち合わせを行う事が多い。
最近では便利なアプリを使ったりもするけど…

通話ボタンをタップしても電源が切られているのかガイダンスが流れるだけだ。

体調もあまり良くなさそうにも見えた。


聞かされていた住所を訪ねる。

そうだろうとは思っていたけど目の前に聳え立つタワーマンションを見上げて、ため息が出た。

いくら売れっ子のイラストレーターと言っても
住めるか?こんな所に。

私生活は謎だらけの人だけど仕事はちゃんと要望以上の物を仕上げてくれる。
今では大野智の挿絵じゃなきゃ単行本を出さないと言う作家がいるほどだ。

意を決して部屋ナンバーを押すと

どこか聴き覚えがある声が応えてくれた。


「J出版社の二宮ですが、大野智さんのお宅でしょうか?」

少し間を置いて “どうぞ上がってきて下さい" と言う言葉と同時に自動ドアが開いた。