智「お昼ご飯はここに置いておくね。

何か...困った事があったら...連絡して...。

僕のLINE、登録しておいたから」



少し前に翔君用に携帯電話を買っておいた。


買って直ぐに渡せなかったのは...多分、怖かったから...

携帯電話を手にしたら...


多分...翔君は出て行くだろう...


だって...失くしたのは僕に関する記憶だけで他に不自由はない...。

いつでも...出て行ける


毎日毎日...落ち着かなかった


少し姿が見えないだけで

出て行ったのかと...何度思ったか


今日、もし帰って来た時に翔君がいないとしても.....それが、翔君の望んだ事なら僕に言える事は何もない



決済アプリにはある程度の金額をチャージしておいた。現金は素直に受け取らないだろうから。

今までも不自由ないように常に現金も渡しておいたし、それで携帯電話を契約する事も提案したけど使われる事はなかった...今思えば...契約は出来ても毎月の支払いを考えれば簡単に買って来いだなんて言うんじゃなかった...翔君のプライドを僕は傷付けただろう...そもそも...自分を証明出来る物を持っていないのに...


あの事件で

自宅にいた時に侵入して来た犯人から身一つで逃げ出した翔君と彼...


二人とも靴も履いていなかった


裸足のまま逃げ出した二人の後ろでは実家から火の手があがった


翔君は家と大切な両親を亡くした


そして...翔君を庇った恋人もまた...亡くなった



今日...ここを出て行っても、きっと行き場はあるはず...友達だっているし...



何もかも...無くした翔君を助けてくれる人の所へ望んで行くなら...僕は、止められない




どうか...出逢えますように...




翔君の、唯一の存在に。


その人と...ちゃんと生きてくれますように...