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更に、早乙女の手には、手紙が持たれているのが見て取れる。
その姿を見た霜月は、
「待って待って待って、ダメダメ、泣いちゃう···。」
と言い、口元に手を当てて涙ぐんでいる。
その手紙を、早乙女が読み上げた。
“ 幸永へ。
誕生日おめでとう!
出会ってから2年半、私は割りと誰とでも直ぐに話せる方だけど、幸永は結構人見知りで、色々話す様になるまでは時間が掛かったと思うけど、今では滅茶苦茶仲良くなったと思ってます。
意見が合わなくて、お互いに意地張って口喧嘩した事もあったけど、今では良い思い出です。
幸永はベースで私はギター。弾いてる楽器は違うけど、幸永の演奏技術は凄いな~って思うし、幸永が隣で弾いてくれてるって思うと、慌てずに落ち着いて、演奏する事が出来ます。いつも有り難う。
Breeze のメンバーとして、友達として、いつまでも仲良くして下さい。
これからも宜しくお願いします。
早乙女杏奈 ”
早乙女が照れながら手紙を読み終えると、観客席からは、割れんばかりの拍手が鳴っており、霜月の表情は、涙でくしゃくしゃである。
「この花、何て言うの?」
表情をくしゃくしゃにしながらも、観客席に感謝を述べた霜月は、そう問い掛けた。
「それはオンシジウムって言う11月5日の誕生花で、“ 可憐 ” とか “ 一緒に踊って ” って言う花言葉らしい。」
と、阿佐野が言うと、
「オンシジウムの花束を頂きました。皆さん本当に、有り難うございました!」
と、霜月が改めて感謝を述べると、受け取った手紙と花束を、一旦渡辺に預け、次の曲の準備に入った。
「それではね、これからライヴの終盤に入って行くんですが、新曲多めとなっているので、最後まで楽しんで入って下さい!」
阿佐野がそう言うと、maple syrup、Rhythm of Love ~めぐり会えて良かった~、Little Devil ~小悪魔みたいな可愛いア・イ・ツ~を演奏すると、
「有り難うございます!時が経つのは早い物で、残り3曲となりました。」
篠森がそう言うと、
『え~まだ早い~』
と言う声が、会場から上がったが、
「まだ終わりじゃないよあと3曲あるから!残り少ないけど、楽しんで行って欲しいな!」
と、篠森が続けた後、
「それでは、最終盤の3曲は、人気の高い “ 初恋 ” と、新曲の “ darling & honey ”、そして、初恋のアンサーソングの “ 恋心 ”、3曲続けて聴いて下さい。」
と、阿佐野が言い、演奏を終えた後、
「有り難うございました!」
と言い、一礼をして舞台袖へと下がって行くと、流石ホームと言うべきか、当然の様にアンコールを望む歓声や拍手、手拍子が起こった。
因みに筆者は、アンコール(encore)は、英語だと思っていたのだが、実は、“ もう一度 ” “ まだ ” 等を意味するフランス語らしい。
アンコールに応える為、再び舞台に登場した Breeze の5人は、各々の定位置に着くと、
「アンコール有り難うございます!アンコールは、先程演奏した “ 初恋 ” の “ boys side version ” を···、まぁ言ってしまえば阿佐野バージョンなんですが、それを聴いて頂きたいと思います。」
と、阿佐野が言い、演奏を終えると、会場から拍手が上がった。
霜月や早乙女が歌う初恋と比べると、やはり少ないが、阿佐野のファンも一定数いる様だ。
「有り難うございます。私達の持ち時間も、残り僅かとなりました。最後の曲を演奏する前に、衣装の話をさせて下さい。」
篠森がそう言うと、阿佐野と共に前に出て、5人が一列に並んだ。
「この衣装はナカジが作ってくれたんですけど、あ、ナカジって言うのは、顧問の中嶋先生の事なんですけどね、それぞれの誕生星座を模した衣装なんですよ。阿佐野ちゃんとあめ氏はジャケットだけなんですけど、私達はワンピースタイプなんです。」
と篠森が続けると、顧問の中嶋に、登場を求める様に呼び掛けた。
丁度、早乙女の正面の観客席でカメラを構え、ライヴの様子を撮影している中嶋は、
「私は良いわよ~。」
と、苦笑いをして、遠慮がちに言ったが、半ば強引に、中嶋を舞台に引っ張り上げた。
その間、中嶋が手に持ってライヴの様子を撮影していたカメラは、隣に座っている国語の教師、大塚の手に持たれており、撮影は続けられている。
「今回の衣装、私が作ったって紹介があったけど、私はあめ氏と阿佐野君の上着のサイズと、女子3人の服のサイズを聞いただけで、洋服屋さんにSNSで見付けたデザインを見せて、作って貰ったのよね。」
と、中嶋は言うが、当の本人達は、中嶋に作って貰ったと言う感覚が強い様で、舞台上で中嶋に感謝を述べた。
「あめ氏と霜月さんが蠍座で、あーにゃが···、えっと~、早乙女さんが乙女座、阿佐野君が獅子座で、諷ちゃんが牡牛座。この衣装、格好良いでしょ?」
と、舞台を下りる前に、中嶋が観客席に問い掛けると、大きな拍手が上がり、その拍手に応える様に、右手を上げた中嶋は、舞台を下りて行った。
「それでは、最後の曲を聴いて下さい。chocolate Box!」
舞台を下りた中嶋が、元いた席に戻るのを待ってから、早乙女がそう言うと、chocolate Box を演奏し、文化祭1日目の Breeze の演奏は終了した。
演奏を終えた Breeze と、撮影をしていた中嶋、多目的室のモニターでライヴの様子を観ていた violet butterfly は、並べた机で弁当を広げ、10分程で食べ終えると、時刻は13時を10分程過ぎた頃である。
「やっほ~🎶」
と言う声が聞こえた。
一同は振り向くと、そこには、雨都の双子の姉の寛子と綾子が居り、手を振っている。
顧問の中嶋と Breeze のメンバーは、
「久し振り~!」
と言い、2人を多目的室に招き入れると、
「ライヴ良かったよ~!ユキちゃんのソロも、バラード3曲で意外だったけど、素敵だったよ~!」
と、綾子が褒めた。
「サプライズはマジで想定外で泣いちゃったけどね。」
と、霜月が言うと、
「俺はノリが何かやろうとしてるな~って思ってたから、何となく予想は出来てたけどね。」
と、雨都が続いた。
「まーちゃんて、そーゆートコ勘が良いよね。」
と、霜月が言うと、一同は “ まーちゃん? ” と言いたそうな表情を浮かべている。
「あ、ゴメンゴメン。あめ氏の事。昔の癖が出ちゃった。」
と言った霜月は、照れる様に苦笑いをした。
暫く談笑した後、13時半からは、第一体育館では、吹奏楽部の演奏が、第二体育館では、演劇部による容疑者Xの献身が始まった。
多目的室には、第一体育館と第二体育館の様子が分かる様、それぞれを繋いだモニターがある。
第二体育館で容疑者Xの献身を順調に演じている演劇部だが、一方の第一体育館で演奏していた吹奏楽部は、14時半を過ぎた頃、1時間程で演奏を終えてしまった。
それに気付いた阿佐野が、
「あれ?吹奏楽部もう終わり?」
と言った。
午前中に第二体育館で演奏した時の内容と違いは無い様に思えるが、落語・漫才同好会の舞台の時間は、そのまま前倒しで始まる事になる。
しかし、14時45分に始まった落語・漫才同好会の舞台は、1時間も続かず、15時半少し前に終わってしまった。
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