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バラードが続いた為か、歓声は控えめだったが、割れんばかりの拍手が返って来た。
「有り難うございます。それでは、ここで軽く世間話でもしようかと思いますが、夏にあった野外フェスに来てくれた人いたら、手を上げて頂いても良いですか?」
と、阿佐野が問い掛けると、観客の7割程が手を挙げ、続いてハロウィンフェスティバルに来てくれた人に手を挙げてもらうと、1割弱の手が挙がった。
ハロウィンフェスティバルは平日の昼間だった為、仕方のない事である。
「有り難うございます。僕からは、野外フェスの時の裏話をしようかな~と思います。2日目に起こった出来事なんですけど、出番前に、控え室で詰めの音合わせをしてる時に、あめ氏が倒れたんですよ。急だったから皆吃驚したんですが、救護室で診て貰った結果、軽度の熱中症だったみたいで、1時間くらい休んでステージに上がって来たんですよ。演奏が終わった後に話を聞いたら、前日の夜、一睡も出来なかったって言うんですよ。緊張してたかワクワクしてたかだと思うんですけど、無理はあんまりしないで欲しいと思ってるんですけどね~。」
と、阿佐野が言うと、
「まぁまぁまぁ···。」
と、雨都が苦笑いをしながら言った後、阿佐野は、
「あーにゃは何かある?」
と、早乙女に振った。
「話題らしい話題はないんだけど、今演奏してて思ったのは、今日、あめ氏のファン多くない?増えた?」
と、早乙女が言うと、
「あ、それ分かる!何か今日多いよね。」
と、霜月が、同感の意を示した。
実際の所、雨都の定位置である舞台上手側の観客席には、雨都が目当てで来ていると思われる面々が、多く見受けられる。
その話をすると、上手側にいる観客から、雨都への大きな歓声とも言える声援が上がり、
「ハロフェスでソロステージやったからかな~。」
と、ドヤ顔で言った雨都は、
「でも、それ言ったらさ、幸永のファンも結構多いんじゃないの?さっきの “ 霜月の月~!! ”  って凄かったじゃん。親衛隊いるんでしょ?」
と、続けた。
「親衛隊なんて···、私そんなの知らないし、聞いた事もないよ?」
と、霜月が言うと、“ 親衛隊いるぞ~!!” “ 応援してるぞ~!!” と言う声が、霜月に向けて投げ掛けられ、霜月は照れながらも手を振り、感謝を述べた後、
「杏奈だってファンいっぱい居るんでしょ?ファンクラブあるって聞いた事あるケド?」
と続け、早乙女に投げ掛けると、
「私のファンクラブなんてないし、そもそもファンなんている訳ないじゃ~ん!」
と笑いながら早乙女は言うが、観客席からは、早乙女を応援する歓声や、早乙女への声援が湧き上がった。
どうやら、早乙女のファンも多い様だが、ファンクラブは、ある様なない様な、と言う感じの歓声である。
少数ではあるが、早乙女がメインボーカルを務める曲も複数あり、その歌声にも伸びがある為、ファンが少ない筈がない。
恐らくではあるが、ファンクラブも存在するのだろう。
世間話も程良い所で、次の曲へ。
「それでは、次の曲に行こうかな~と言う頃合いなんですが、阿佐野ちゃん、次の曲は何をやりますか?」
と篠森が言うと、
「はい。それでは、次は、snow drop をカバーさせて頂いた後に、オリジナル曲の ANGEL smile と Twin LeaF を、演奏させて頂きます。
と、阿佐野が言い、snow drop、ANGEL smile、Twin LeaF を演奏すると、雨都、阿佐野、篠森、早乙女は、上手側の舞台袖へと下がり、舞台には、霜月が1人残された。
ここからの時間は、霜月のソロステージが行われる。
「それでは、こここら少しの間、私のソロステージをさせて頂きます。」
 マイクを取り、そう言った霜月は、
「私自身、初めてのソロステージなので、滅茶苦茶緊張しているんですが、暖かい目で見守って頂けると有り難いです。」
と続け、岡本真夜の will~未来へのプレゼント~を、ベース1本での弾き語りで披露すると、会場から拍手が上がった。
「有り難うございます。ソロステージでは、全部で3曲歌わせて頂くんですが、3曲全てバラードなので、盛り上がりには欠けると思いますが、聴いて頂けると嬉しく思います。」
と言った霜月は、
「続いては、私達の曲の中から、普段はあめ氏がメインボーカルを務める “ あの曲 ” を歌わせて頂きます。窓を開けてごらん。」
と続け、これもベースの弾き語りで披露した。
普段は雨都が歌う “ 窓を開けてごらん ” だが、女性のキーで霜月が歌う “ 窓を開けてごらん ” も、なかなか新鮮であり、観客席では、親衛隊を始め、皆、その歌声に聴き入っており、歌い終えると、想像以上の拍手が湧き上がった。
その拍手を聞いた霜月は、
「本来はあめ氏が歌う曲で、あめ氏が歌う方がずっと良い曲になるんですよ。明日、本来のあめ氏が歌う本来の形で演奏するので、明日も是非来て下さい。」
と、照れながら言うと、
「さて、ソロステージの時間も、残り僅かとなりました。私のソロステージの最後の曲は、中島美嘉さんの雪の華を歌わせて頂きます。」
と続け、霜月のソロステージの最後の曲 “ 雪の華 ” を歌い上げると、会場からは、沢山の拍手が上がった。
「以上で、私のソロステージを終わらせて頂きます。有り難うございました。この後は、私達 Breeze のリーダーで、キーボードのノリが、フリートークをするみたいなので、バトンタッチします。ノリ宜しく~!」
と、霜月が阿佐野に振った。
霜月には、ここでバースデーのサプライズを行う事を伝えておらず、阿佐野が登場して、それと入れ替わる様に、霜月が舞台袖に下がると言う流れで説明してある為、阿佐野が登場しない事を不思議に思った霜月は、
「あれ?可笑しいですね~。阿佐野く~ん、フリートーク宜しく~!」
と、再び振ると、HAPPY BIRTHDAY の前奏が流れた後、歌いながら軽音部の部員達が、舞台袖から登場した。
上手からは Breeze のメンバーが、下手からはviolet butterfly のメンバーが現れ、violet butterfly のベース、渡辺彩香の手には、11月5日の誕生花であるオンシジウムの花束が持たれている。
オンシジウムは、ドレスの裾を広げて踊る女性の姿に見える事から、英明では、「ダンシング・れでぃ・オーキッド」と呼ばれている。
日本での別名「ムレスズメラン(群雀蘭)」は、スズメが群れている様子に例えられる事から。
花言葉は、「可憐」「一緒に踊って」。
由来は、空を舞う蝶々や、ドレスを広げて優雅に踊っている女性に見える花姿から、連想して名付けられた。