「遅くなってごめ~ん!」
13時半を過ぎて、40分になろうかと言う頃、午前中、美容院に行っていた早乙女が、第二音楽室に到着した。
早乙女の姿を確認した軽音部員一同は、驚きの表情を見せた。
胸の辺りまであったロングヘアーがバッサリと切られ、ショートボブになっていたからである。
「えっ、杏奈さんめっちゃ似合ってる!」
と矢釜が言うと、
「エヘヘヘ、有り難う🎵」
と照れながら言った早乙女は、Breeze が囲んでいる机の輪に加わると、
「あめ氏ニヤニヤしちゃってどうしたの?」
と、笑顔で雨都に問い掛けた。
「ショートボブ似合ってて可愛いな~って思って。」
照れながらそう返した雨都に、
「ちょっとあめ氏!!私は!?
と霜月がヤキモチを妬いて、食って掛かる様に言うと、
「幸永はさ、滅茶苦茶可愛いじゃん。そう言う所も含めて。」
と、雨都が返した。
それを聞いた霜月は、
「っっ、ばかぁっ···。」
と言い、顔を真っ赤にして照れてしまった。
その後改めて、5人でセットリストを組む話になり、もう直ぐ14時になろうかと言う頃、Breeze のセットリストが完成した様で、
「よし、そしたら10分くらい休憩しようか。」
と阿佐野が言い、Breeze は休憩に入ると、阿佐野は、職員室の中嶋の所に向かった。


      *      *      *


「中嶋先生、相談したい事があるんですけど、今大丈夫ですか?」
職員室の入り口から中嶋の姿を確認した阿佐野は、時間の都合を確認した。
「今大丈夫よ?どうしたの?」
中嶋がそう返すと、
「今年の文化祭の前日の5日がシモの···、霜月の誕生日で、2日目の翌日の8日があめ氏の誕生日なんですけど、violet butterfly の5人から、サプライズで何かやりたいって話が上がってて······。」
と、阿佐野が内容の説明を始めた。
案1。11月5日に前夜祭と言う体で霜月のバースデーサプライズを行い、初日(6日)の霜月のソロステージ後に、色紙なり花束を渡す。
2日目(7日)のあめ氏のソロステージ後に、色紙なり花束なりを渡し、8日に後夜祭と言う体で、雨都のバースデーサプライズを行う。
案2。初日(6日)の霜月のソロステージ後に、色紙なり花束なりを渡し、ホームルーム後に霜月のバースデーサプライズを行う。
2日目(7日)の雨都のソロステージ後に、色紙なり花束なりを渡し、ホームルーム終了後に雨都のバースデーサプライズを行う。
ただ、どちらの場合でも、ケーキがあるのがバレないように保管して貰う必要があるのが大前提である上、ケーキを保管出来ない場合、他の案を考えなければならない。
「なるほど。ケーキを用意したいのね?保管するだけなら家庭科室で出来ると思うけど、家庭科部との兼ね合いもあるから、出来そうなのは2つ目の案だけど···。井上先生、如何ですか?」
と、阿佐野の話を聞いた中嶋が、隣に座っている家庭科部顧問の井上に、家庭科部の予定を聞いてみると、
「私も2つ目の案の方が有り難いですし、そうして頂けると助かります。家庭科部の生徒には伝えておきますので。」
と、井上が返した。
井上の配慮に、中嶋と阿佐野は感謝を述べると、
「ケーキ買うお金はどうするの?」
と、中嶋が問い掛けた。
「あめ氏とシモは500円ずつ、その他の部員は1000円ずつ集めてあります。」
と阿佐野が答えると、
「それじゃあケーキ買うので精一杯なんじゃない?私3000円出すから、もし余ったら簡単な花束でも渡してあげたら?」
と中嶋が言った。
断ろうとした阿佐野だったが、
「私もね、今年はあの2人に何かしてあげたいと思ってたの。特にあめ氏は、Breeze の殆どの曲の作詞と作曲をしてるじゃない?霜月さんも、編曲面でのあめ氏のサポート上手いし、ベースだって、縁の下の力持ち的な、早くて複雑なビート刻んでるでしょ?アレって並大抵の努力じゃ出来ないと思うの。だからコレは、私からの気持ちだと思って···。」
と言い、3000円を阿佐野に手渡したが、改めて紙幣を確認すると、1000円札だと思った3枚の内2枚は2000円札であり、
「先生コレ···。」
と言って、返そうとした阿佐野の手元に、そっと手をかざした中嶋は、
「良いから取っておきなさい。」
と小声で言い、半ば強制的に、紙幣3枚を阿佐野に持たせた。
「参ったな~。こんなつもりじゃなかったんだけどな~。」
阿佐野はそう呟いて、どうしようか考えながら、第二音楽室へと向かって歩いている途中で、
「花束でも買うか。」
と言い、中嶋との話が長引いてしまった為、足早に第二音楽室へと戻って行った。


阿佐野が中嶋と話をしている頃、第二音楽室では、セットリストを組み終わった violet butterfly と Breeze が談笑をしており、話の中で、
「あめしー先輩と幸永先輩、何か雰囲気変わりましたね。」
と、渡辺が言った。
雨都と霜月は、
「ほんの数日じゃそんなに変わらないよ~。」
と返したが、他の部員達は、
「何となくとしか言えないけど、雰囲気が変わった。」
と言う。
また、早乙女が髪をバッサリと切った理由にも話が広がると、
「単純にイメチェンしようと思っただけなんだけどな~。」
と早乙女は言う。
Breeze のメンバーは、失恋の影響ではないかと思ってしまう部分があったが、それを口にする者はいなかった。