多目的室に集まった Breeze のメンバーは、手早くチューニングを行ない、新曲の音作りへと入った。

練習前、“ 出来ているのは少なく数えて4曲 ” と雨都が言っていたが、普段持ち歩いているプリントされた歌詞を保管しているファイルを確認する限り、Twin LeaF、なないろ、maple syrup、愛言葉、Rhythm of Love~めぐり会えて良かった~の5曲。

雨都は多目的室に集まった Breeze のメンバーに、この5曲を弾き語りで疲労した。

この5曲に、今後更に何曲か増える様で、その話を聞いた篠森から、

「あめ氏ってさ~、曲作る時さ~、歌詞と曲と、どっちから先に作ってるの?」

と言う質問が出た。

「えっ、今更それ聞くの?」

と、笑ってしまった雨都が曲を作る時は、メロディーラインから先に作っている様だ。

歌詞に入れたいフレーズをネタ帳にメモしており、浮かんだメロディーにその歌詞を当て嵌めて行くスタイルの様で、同じテーマのフレーズを並べて、“さあ、メロディーを付けるぞ!” というスタイルは、どうも苦手らしい。

阿佐野との合作曲も、榑松からメロディーラインを受け取った “ 光ら輝く為に… ” も、メロディーに歌詞を乗せていくスタイルで作った曲である。

現時点で出来ている新曲のデモを配った後に、仮歌の披露した後に音作りをすると、時刻は18時を過ぎていた為、解散し、それぞれの帰路に着いた。


3日後、3時限目の国語の授業が終わった雨都は、4時限目の数学の授業の準備をしていた所に、霜月がやって来た。

「まっ······、あの~、あめ氏~!」

何故言い直したのだろうか···。

声のした方を向くと、霜月が歩いて来るのが目に入った。

「何で言い直したの?」

笑いながら言った雨都に、霜月は口を尖らせた。

「良いじゃん!それよりさ、今日国語ある?教科書貸して欲しいんだけど······。」

霜月が忘れ物とは珍しいを

「忘れ物のんて珍しいじゃん。今終わったばっかだから良いよ?」

雨都はそう言うと、霜月に教科書を手渡した。

「ありがと!じゃ、また後でね!」




4時限目の授業終了後、国語の教科書を返しに来た霜月は

入り口の扉から手招きをしており、雨都のいる教室に入って来る様子はない。

“ 何故入って来ないんだろう? ” と雨都は思いながら、霜月が待つ扉の外へと歩いて行った。

「教科書有り難う。」

と言い、国語の教科書を雨都に返した霜月は、

「今日の部活の前に話したい事があってね、ホームルーム終わったら待ってて欲しいんだけど、良いかな···?」

と続けた。

「うん。今週、教室の掃除当番だから、そのまま待っとくわ。」

何の話かは分からないが、2人だけで話したい内容なのだろうと思った雨都は、渋々と言うか、仕方無くと言うか、掃除が終わった後、取り敢えず教室に残る事に。


ホームルーム後の掃除が終わると、15時45分を過ぎており、もう直ぐ50分になろうかと言う頃、雨都の所に霜月がやって来た。

「話したい事って何かあったの?何か相談事?」

先に声を掛けたのは雨都だった。

「相談と言うか、伝えたい事があるんだけどね···。」

そう言った霜月は、ライヴに出演する時よりも緊張している様で、

「あなたは私の王子様。これからもずっと、一緒にいて欲しいな。」

と、照れ臭そうに続けた。

それを聞いた雨都は思わず笑ってしまい、

「文化祭よ演劇の練習すんならさ、同じクラスの人とやった方が良いんじゃないの?」

と、笑いながら言った。

「違う違う!あのね、えっと~、ま~ちゃん!あのねっ···。」

と、恥ずかしそうにしながら、

「私は···、あなたの事を···、愛しています。心から···。」

と言った霜月は、

「やっぱっ···、忘れてっ!めっちゃ恥ずかしい···。」

と言い、顔を真っ赤にして照れてしまった。

それに対して、

「何それ。意味分かんないんだけど。どうしたの?」

と、笑いながら返した雨都に、

「いや···、だから、そうじゃなくて、私ね、まーちゃんの事好きなの。だからね···、付き合って欲しいんだけど······、ダメ···、かな······。」

と言う霜月の顔は真っ赤になっており、瞳はウルウルしている。

こんな霜月は、滅多に見られない。

「バカだな~。そんなの···、断る訳ないじゃん。俺も幸永の事好きだよ。」

霜月の告白に、雨都も照れながら返すと、

「ホントに?でもまーちゃんてさ、西村さんと良い感じなんじゃないの?修学旅行の時ずっと一緒だったって聞いたんだけど···。」

と霜月が問い掛けた。

「やよ氏とは仲良いけど、席が近いだけで、別にそう言う関係じゃないから。」

と雨都が返すと、霜月は満面の笑顔を浮かべ、

「そろそろ部活行こっか!」

と言い、雨都と2人で多目的室に向かった。



        *        *        *



「まずハロスェスの方なんだけどさ····。」

雨都と霜月が多目的室に着くと、阿佐野、篠森、早乙女の3人で、ハロウィンフェスティバルのセットリストの話を始めていた。

何事も無かった様な感じで、雨都から先に多目的室に入ると、

「あめ氏遅ぇよ!シモ···、あ、2人一緒か。」

と、2人に気付いた阿佐野が、すかさず言った。

「えっ?そんなに遅くなくない?」

雨都としては、体感的にそれ程遅れていないと思っている様だが、阿佐野の理屈は、雨都の体感とは異なる様だ。

「15時20分に授業が終わってさ、ホームルームと掃除があって、それから来たとしても、もうちょい早く来れんでしょ。シモもそうだよ?同じクラスのあーにゃがきてんだから。」

正論である。返す言葉がない。

時計を見た雨都は、16時を過ぎている事を確認した。

「申し訳ない···。」

言い訳もせず、椅子に座った雨都の後に、

「あの、あめ氏は悪くなくてね、あめ氏に借りた教科書を返しに行く時にちょっとバタバタしちゃって、それで遅くなったの。ホントごめん。」

と霜月が言ったが、これは真っ赤な嘘である。

“ 良く言うわ~ ” と思って苦笑いを浮かべた雨都は、斜め向かいに座っている早乙女が、笑みを浮かべながら、雨都の隣に座っている霜月にウインクをするのを、見逃さなかった。

それを不思議に思った雨都は、霜月の表情を確認すると、霜月はにこやかな表情をしており、ペンを持った右手の親指を立てている。

霜月と早乙女の無言のやり取りに、阿佐野は気付いていない様だが、早乙女は、2人が遅れて来た理由を知っているようだ。


それはさて置き、ハロウィンフェスティバルのセットリストの話しに戻った。

「私達の曲ってさ、ハロウィンぽいのないじゃん?だからカバーどうかな?って思ってるんだけど···。」

と篠森は言うが、阿佐野と早乙女は、オリジナル曲で行きたいと言う。

雨都と霜月の意見を聞いてから、最終的にどちらにするかを決めると言う段階だった様だ。

「俺もオリジナルで行きたい。新曲の音作りもある状況で、カバーをやるのはキツいでしょ。」

と雨都は言うが、

「私もカバーやるのもアリかな~って思ってたんだけど、あめ氏の新曲の音作りもあるからって言うのも分かる。」

と言う霜月の意見。

“ カバーもアリ ” と言う意見も出たが、オリジナル曲で行きたいと言う意見が過半数を占めた。