※ この記事は 2018年7月の記事を更新したものです。
先週見てきた「未来のミライ」が思ったより酷評されているので、レビューサイトを比べながら原因を考えてみました。
目次
①映画を見た私の感想
②レビューサイト比較
③「未来のミライ」が酷評される理由
①映画を見た私の感想
細田監督は、橋本カツヨ名義で「少女革命ウテナ」を演出していたときからのファンです。
その後の「おジャ魔女どれみ」でも、細田演出回は伝説的なものが多く、私がアニメにのめりこんだ1つの原因でした。
映画すべて劇場で見ていますが、前作「バケモノの子」が個人的にイマイチだったので、今回の「未来のミライ」はあまり期待せずに見に行きました。
理由は明らかで、脚本が奥寺さんでなくなったことだと思います。
今回も細田監督の脚本ということで不安がありませんでした。
しかし、実際見て見てみると「意外と悪くないな」と思いました。
ストーリーもシンプルで分かりやすくて楽しめ、いろいろな所で感動できました。
もちろん細田演出も素晴らしく、満足でした。
ただ、エンターテイメント性よりも作家性を前面に押し出していたので、単純に楽しい映画を見たい人には退屈かもしれないと思いました。
ところが、ネットでは酷評が溢れ、Yahooでも2.5点とかなり低い評価になっています。
なぜ酷評されるのか、理由が知りたくて、いろいろな感想を見ましたが、批判する人の傾向もバラバラでイマイチ理由がわかりませんでした。
そこで、批評サイトを比べることで、どうして「未来のミライ」が酷評されるのかを考えてみました。
②レビューサイト比較
※ 後ろに、(賛)(否)(中立)で分るを書いてみました。
(1)【映画感想】未来のミライ(否)
http://blogos.com/article/313055/
・細田作品は苦手だが認めていた
・リアリティを感じた
・そのせいでイヤな事を思い出した
・エンターテインメントというより、いまの時代の家事育児の役割分担啓蒙作品
・ストーリーがよくわからない
(2)「未来のミライ ネタバレ感想&考察 すっごい良くて、すっごい悪い!? これは傑作か迷作かははっきり分かれる!」(中立)
https://blog.monogatarukame.net/entry/morainno_mirai#%E6%84%9F%E6%83%B3
・演出、作画が最高だが、評価が分かれそう
・脚本がボロボロ
・理想的な家庭を書くのは世の中の潮流からずれている
・舞台、主人公、子供目線に違和感がある
・特にストーリーが弱く盛り上がりがないのが致命的
・子供の成長の描き方がよい
(3)「映画『未来のミライ』レビュー」(賛)
https://note.mu/uranichi/n/n152b21f8539e
・自分は登場人物とまったく異なる境遇で共感点はない
・そんな自分でも共感できる全方位向けの映画
・大人が見ても人間関係について気づきがある
・すべてを肯定的に描いているわけでもなく、考えさせられる
・アニメ的な演出も刺激になってよい
(4)「未来のミライ レビュー」(中立)
https://jp.ign.com/mirai-no-mirai/26934/review/
・細田作品で「賛否が分かれる」のは、主人公個人の感情が無視されているからではないか
・社会的な価値規範と自尊感情に葛藤がない人は細田作品を肯定するだろう
・細田作品の提示する家族観は観客の自尊感情に嫌な感じで触れてくる
・2010年代の家族を描いた象徴的な作品
・今まで日本のアニメが描い地続きな家と家族のムードがなく、理想的な家族像に見えながら、格差が表れている
・主人公の心が傷つくシーンは多く、胸が痛む
・この映画の賛否の中に、ここ10年間で家族の概念の差が表れている
(5)「細田守最新作「未来のミライ」 レビューがビミョ~なワケ」(中立)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180726-00000012-nkgendai-ent
・映画批評家には傑作だが、一般のファンは物足りないのでは
・今作は私小説的で、今後細田監督はマスを狙わずにそちらにシフトした方がよいのでは
(5)「いままでの細田作品の問題が、作家的深化とともに表面化」(否)
http://realsound.jp/movie/2018/07/post-228005_3.html
・退屈なのは観客の理解力不足ではなく、シンプルなテーマを伝えられないつくりの手の問題
・オムニバス形式が緊張感を奪い退屈を生み出している
・くんちゃんのキャラクターや見せ方が観客に不快感を与えている
・細田監督の脚本によりクオリティー上の複数の問題が噴出
(6)「『未来のミライ』は細田守版『千と千尋の神隠し』!?」(中立)
http://originalnews.nico/120255
・ 育児経験という意味では、エピソードとか表現 が普通
・ 良い声の人が普通のことを話している感じ
・『千と千尋の神隠し』とストーリーに類似点が多く、細田版『千と千尋の神隠し』といえる
・くんちゃんとの触れ合いで、登場人物それぞれのコンプレックスが癒やされる構成になっている
・難しい構成にした結果分かりづらくなっていて、やりたいことを素直にぶつけた方が良かったのでは
③「未来のミライ」が酷評される理由
まず、すべての批評で共通しているのが、映像や演出の良さです。
これは万人が認めることのようです。
一方で、ストーリーが悪いという声も多くあります。
(実際ネットの不満の多くがストーリーに関するものです。)
これは、今回の作品が、詩的でオムニバス形式だからだろうと思います。
つまり、こういったスタイルに拒否感がなく、抽象的な物語を楽しめる人には、分かりやすい話ですが、多くの人には意味不明で、盛り上がりがなくつまらない印象を与えているようです。
また、映像や演出の力があだになって、「ホームビデオを見せられている」「子供が不快」「子育てを理解していない」「自分の嫌な体験を思い出した」など、悪い印象を与えているようです。
特に注目したいのが(4)の批評で、受け取る側の家族と個人についての考え方で拒否反応がでているという指摘が腹落ちしました。
これは今、家族や個人のとらえ方が、人によって大きく差ができていることに起因しているようです。
細田監督が良かれと思って書いている"理想の家族像"が、観客の多くに共感が得られず、遠いもの、あるいは不快なものに映っているようです。
多少とがっているにせよ、それなりに老若男女が楽しめる作品を作ったはずが、「つまらない」「不快」という露骨な拒否反応を生んだのは細田監督自身も意外だったのではないでしょうか。
また、ストーリーやメッセージも残念ながら多くの観客には理解をしてもらえなかったようです。
観客の読解が、監督の期待と乖離していると思いました。(この辺りは高畑監督を思い出しました)
結論としては、読解を楽しめる、テーマに共感できる人が楽しめる作品なのではないでしょうか。
こういった感想を見て、細田監督が今後エンターテイメントと作家性どちらを取るかを注目していきたいです。
(奥寺さんやだれか脚本家とのタッグが復活した場合、スポンサーの意向も大きいかもしれませんが。)
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました m(_ _)m