創元社の「戦後再発見双書シリース」の第1巻。
2012年の発行だが、他の本で紹介されていて読んだ。もちろん図書館で借りた。
著者は、孫崎 享さん。外務省で情報畑を歩み、退官後は防衛大学校の教授も務めた。
内容は、同種の題名のきわものとは少し異なる。
極めて丹念に情報を分析してまとめられた本だと思う。発売当時はかなり話題になったようだ。誰かさん寄りと言うこともないと思う。
内容は、端的に言うと「戦後は終わっていない」ということだと読んだ。
戦後以来現在も、アメリカからの圧力は続いており、歴代の首相も「対米追随」派か「自主路線」派かのどちらかに分類される。自主、つまりアメリカの意向に沿わない政治を行う自主派首相は、基本的にアメリカによってなんらかの形でり政権を追われるというのが、この本の謂わんとするところ。外務省もその例外にあらずだそうだ。
昭和電工疑獄、ロッキード事件、リクルート事件などが、その典型だと言う。
「信じるか信じないかはあなた次第です」という類の話よりは、信ぴょう性があると思う。
上記の事件を摘発したのはすべて「東京地検特捜部」である。
この特捜部については、私もまったく知らなかった驚くべき事実が書かれていた。
地検特捜部は現在は、ゴーン事件でさかんに名前がでてきているが、基本、政治家の汚職、巨額脱税だとか贈収賄事件を扱う部門で東京、大阪、名古屋にだけある。
この本によると、
東京地検特捜部の前身は、何かということ。
それは。旧日本軍が戦争中に集めて貯蔵していた様々な物資が戦後になって横流しされ、行方不明になっていた。これを問題視したGHQが、そうした不当に隠された物資を捜し出して、GHQの管理下に置くことを目的として設置した「隠匿退蔵(いんとくたいぞう)物資事件捜査部」というのが、今の特捜部の前身なのだそうだ。注目すべきは、物資を捜し出して「GHQ」=アメリカ(厳密には連合軍だが、実質アメリカ)の「管理下」に置くという点。日本や海外で軍に接収された人たちに返すのではなく、アメリカに渡すのである。戦時賠償のようなものだ。つまりこの組織は、アメリカの出先機関のようなものであったのだ。
知らなかった。
それが1947年に、東京地検特捜部になった、というか名称を変えたのだ。
この本にも、一例として1945年10月にGHQ自身が、東京の三井信託の地下倉庫から、ダイヤモンドを16万カラットも接収したという事実が記載されている。
そのような特殊なアメリカとの関係があった組織が、今はまったく無関係と言えるでしょうか?と、言いたいようだ。そりゃ、あるんじゃないの?と思うよね。
あと、思い違いと言うか、忘れていたことも思い出させてくれた。
今、トランプ大統領の保護貿易主義に非難が集中しているが、アメリカという意味ではこれがはじめてのことではない。これまでも、アメリカの貿易赤字解消のための日本への圧力はすでにあった。繊維の輸出制限、自動車輸出への自主規制と言う名の台数削減の押し付け。この本を読んで思い出した。今は貿易赤字の主原因が日本から中国に変っただけだ。つまりアメリカは、以前から自国の利益のためには何でもする国だったのだ。
1985年9月のプラザ合意。これで日本がどうなったかも頭の中が整理された。
合意内容は「主要非ドル通貨の、ある程度の一層の秩序ある上昇が望ましい」という、なんだかわからない言い回しだが、簡単に言えば日本は円を円高にしろ!ということ。本当はドルを切り下げればよいだけだったが、国民の支持を失うとして自国以外のよその国に切り上げを迫った。
この本では、プラザ合意を日本の景気低迷のはじまりと位置付けている。日本円をわざと円高にし、アメリカへの輸出に歯止めをかけたのだ。
合意の年の12月には、合意の9月に240円だったものが200円に、翌86年7月には155円の円高となった。現在は110円前後だ。一方、主要通貨でないアジア諸国の通貨はそのままだったため、日本の製品はアジア諸国の製品にも競争力を失い、日本の企業は工場を中国やアジア諸国に移し始めた。日本の景気低迷と産業の空洞化がはじまった。
あの合意以来、円高は続いたままだ。日本は低迷のまま。そうそう、なるほど。
もうひとつ。
1988年の国際決済銀行が銀行の自己資本比率に関する規制を決めた。いわゆるBIS規制(バーゼル合意)。簡単に言うと総貸付に対して自己資本の比率が8%以上ない銀行は、国際業務から撤退しなさいという規制。
この頃私はもう社会人だったが、自分に関係ないと思っていた。
これもアメリカの意向だったのだ。
当時日本はバブルまっさかり。1990年、世界の金融機関のベスト10というランキングで、日本の銀行が7行もランクインしていた。また金が余っていた日本の銀行の貸付能力は、すざまじくアメリカの土地、建物、企業をどんどん買収していた。アメリカはそれに不安を感じ、対抗手段を考えた。それがBIS規制だった。
当時日本の銀行の自己資本比率は、低く8%にはとても届かなかった。
貸し出しに対して自己資本比率を高めるには二つの方法がある。
ひとつは、貸出額を減らす。これにより日本の銀行の貸し渋り、貸しはがしがはじまった。当然企業の活動は低迷し、企業活動が不振になると、貸し出しは不良債権になる。
もうひとつ。自己資本そのものを増やす方法。銀行は新たな株式を発行し資本を厚くする。その結果銀行株以外の株に金が回らなくなり、株価が低迷、そうすると銀行自身が保有する企業の株式の評価も下がる、かえって自分の自己資本比率も下がってしまうという悪循環。
こうして日本の銀行の経営は悪化、連動して日本の経済も悪化することになった。
ちなみに2009年の銀行ランキングでは、日本の銀行は三菱のみ、9位であった。
以下は、私の思い。
今はあまり聞かないが、一時グローバルスタンダードというのがおおはやりしていた。世界中のさまざまな活動や基準を、みんなが同じものに統一すれば、間違いもなくなるし、いちいち相手の基準はどうだっけと調べたり、それに合わせていろいろと変更したりする手間がはぶけるよね、というちょっとよく聞こえる話だ。基準に届かない遅れている国や基準のない国は、スタンダードに従えば自分の底上げもできるよね、という話もあった。
今思えば、あれはグローバルではなくて、すべてをアメリカのスタンダードに合わせさせようという動きだったと思う。アメリカがやりやすいように、世界中を動かそうとしていた。
アメリカというのは、いろいろな面ですごい国だと思う。すごいには怖いという意味も含んでいる。
とてもかなわない。
悲しいかな、恐らくこの国から米軍基地はなくならない。米軍が自ら撤退しない限り。
2020年の東京オリンピックを控えて、羽田空港の発着枠を増やすために東京の23区内の上空を通過する着陸パターンを新たに設定する話がある。これで世間に少しは知られるようになったが、関東地方の上空はほとんどアメリカの領空だという事実。日本の空ではないのだ。航空関係者は以前から知っているが、世間の人はほとんど知らない。あの着陸パターンは、そのアメリカの空をほんの少しかすめるので使えないという話だ。
私は、まだ戦後は終わっていないと思う。たぶんこの先も。という気になってくる、こういう本を読むと。
ここは日本なのに。