「ったく、どうしてほおっておいたの」
手洗い場に着いた所で、西島聖磨は私の手首を未だ掴んだままだ。そして、蛇口を捻り、流れ出した冷たい流水を私の掌当てた。ジンジンと痺れるように痛い。傷口が、手首が。
私は応えを詰まらせた。何故? 何故私は放置したのだろう。態々、悪化させたいわけではない。この様に労わってもらいたかったわけでもない。ああ、そうだ……。私は理由を思い出した。
「貴方が現れたから」
「どうして俺が関係してくるのさ」
その問いに応えるかを、一瞬迷ったが、こうなれば全て吐き出してしまおうと決意した。一つ溜息を漏らして気を落ちつからせた。
「まず、貴方とぶつかったときに怪我をした。遅刻寸前だったから急いで絆創膏を貼った。だから直ぐに剥がれた。それには気付いたけど、貴方の周りに集まった人達のせいで、椅子さえも引くことができなかったの」
「……そんなこと、が」
「これって発端は貴方ってことよね。だから、私が怪我を放置した理由は『貴方が現れたから』なのよ」
西島聖磨は黙り込んでしまった。
握力が少し緩まる。その隙を逃さず、掴まれていた右手をするりと抜いた。反動で水飛沫が上がる。まるで支配から身 を放たれた奴隷のように、飛び散った。
「お節介は結構です。次の業間に保健室いきますから」