マリオ・デル・モナコの思い出”。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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昨日4/16のEテレ【らららクラシック】はレオン・カヴァッロの歌劇【道化師】のアリオーゾ 衣装をつけろ”に付いての考察であった。言うまでもなくこのヴェリズモ・オペラを代表する作品、歌劇【道化師】はレオン・カヴァッロの最も著名な作品であると同時に彼の出世作そして唯一の成功作と言う事になり、その優れた作品構築の妙は残念ながら作曲者自身の以後の作品をもその全てが超える事の出来ない高みに達していた事を物語るものであり、レオン・カヴァッロに取ってこの【道化師】成功の悲喜交々のあり様は結果として彼が終生背負わねばならなかった作曲家としての苦悩をも生み出した原因ともなったのである。オンエアのテーマとなったアリオーゾ 衣装をつけろ”は第一幕の幕切れ、主人公カニオがうら若き妻ネッダの不倫に心掻き乱され、動揺・怒り・悲しみ、幾重にも重なり合う心情の苦悩を吐露して歌うテノールのイタリアオペラ史上最も優れた名歌の一つある。過去現在を問わずこのオペラの上演には歴史的名演が数多存在するのだが、その中でも特にNHKがかつて招聘したイタリア歌劇団の昭和36年来日公演で見せた世紀の名テノール、マリオ・デル・モナコの扮するカニオが歌った 衣装をつけろ”はまさに、後にも先にもこれ以上の歌唱はあり得ぬと思うほど鬼気迫る迫真の演技と相まって醸し出された【不世出の名唱】と言える本当に見事なものであった。幸いにもこのモノクロの舞台収録はNHKに現在まで保存され又、先年DVD化もされている。【らららクラシック】ではこの不朽の名作、歌劇【道化師】の誕生秘話や楽曲解説等分かりやすく提示しつつ番組を構成していて特にオペラ初心者には打ってつけのオンエアだったと感じた次第だ。そして番組の最後、いよいよ、そのマリオ・デル・モナコの歴史的名唱が流された。私は今まで幾たびもこの名唱に接して懐かしい過去の音楽的経験の思い出を振り返って来たが又、昨日この歌声に接して、不覚にも涙を抑える事が出来なかった!。名唱名演、数あれどマリオ・デル・モナコほど私のこころを鷲掴みにして離さないテノールは他にその例を見ない。思い出は遠い彼方へと過ぎ行くもの!。そうは分かっているが忘れえぬ永遠の生命力を持って私達に感動を与え続けるものは確固たる価値を有するものである事も又、確かである。【マリオ・デル・モナコの思い出】はまさにそうした永遠に忘れえぬ人類の宝に他ならない!。俗っぽく言おう【こんなテノールは二度と再び現れないだろう!。その歌声は神技そのものだ!。】
(ルチアーナ筆。)