(ルチアーナ筆。)
今から十五、六年前までの事、シンガーソングライターの小椋佳氏が毎年夏に興味深い舞台企画を展開していた。全国から有名無名を問わずオーディションを行い集められた十数人の子役達をオリジナル脚本と音楽に彩られたミュージカルの世界で夢の様なステージに誘い、魅惑の演技と歌によって多くのファンを魅了していたのである。しかし何故かこの斬新な試みはいつの間にか火が消えるように終わりを告げそれ以来、復活の兆しどころか今や完全に過去の歴史と化してしまった様に見受けられる。当時このアルゴ・ミュージカルと呼ばれる催しは東京を皮切りに全国各地でその公演の舞台をツアー開催しその度多くのスポンサーが後援して盛況を得たものだった。そしてその公演メンバーに当時まだ中学に進学して間もない山崎育三郎やこれは今も続くロングラン・ミュージカル【アニー】に主演した冨岡真理央、今だコアなファンに事欠かない声優の齋藤彩夏、後に国民的美少女コンテストのファイナリストとなり音楽特別賞受賞と共に【美少女クラブ21(後の31)】の一員として華々しくデビューした本田有花などがいたのである。蛇足だがこれらの子供達は全て後先はあるが私が歌を教えた弟子達である。いずれも優れた演技力とダンスのセンスにもその力量を発揮し歌声も個々に充分な素質を持っていた。まさにジュニア・ミュージカルの全盛時代を彩ったこの子供達はそれを担うまさに宝と見なされたものだった。だがどうだろう。あれからひと昔を経過してあれほど華々しく舞台狭しと躍動していた当時の子役達の何人が今のエンタメ界にその名を留めている事やら…。先述の通り山崎育三郎は今や確固たる活躍の道筋をたどって本人も益々果てない夢の実現に向け目の輝きを一段と強めているのだろうが、その他の子供達の今は果たして如何なる事になっているのかを思えば些か現実は悲しい限りである。私はクラシックの基礎を学ぶ事で歌を歌う為のテクニックを身に付けそれを土台にあらゆるジャンルの作品への歌唱対応力の底上げを図る事を子役達に求めた。…が一部のレッスン生を除いて殆ど全てが腰を据えて勉強する事にその重要性を理解しつつも、その時間とたゆまぬ努力の道のりに耐え切れず挫折していったのだった。あの時あのタイミングで目先の仕事に振り回されず勉強を続けていてくれさえすれば後年大きな成果を得て結実した活躍が約束されたであろう逸材を私は今も多く記憶に留めている。アルゴ・ミュージカルに明日の希望と夢を乗せ躍動した多くの子役達!。その中の決して少なからぬ数の子供達を私は親御さんが信じた我が子の才能への期待を尚も充実した実力の持ち主へと大きく進化育成させる為、心血を注ぎ込んだのであった。しかしその成果は私が描いた結果とは裏腹に余りにも解離しているのが現状だ。一億総タレント時代などと言われる昨今。ごく普通の女の子や男の子が一夜明ければ売れっ子アイドルなどと言うケースも稀ではない。だがそれは益々粗製乱造の極み、真のエンタテインメントを担う人材の育成は蔑ろにされ芸能界そのものの劣化に拍車をかける事になっているやに思う。実践の中から事の本質をしっかりと踏まえて指導育成するプログラムを構築して【本物の歌】【本物の演技】全てが真にプロフェショナルを名乗るに相応しい人材を育てなければインターナショナルな枠組みにおいて日本のエンタメ界を誇れる日など永遠に訪れる筈もない。アルゴ・ミュージカルが斬新で魅力に長けた発想を持っていたにも関わらず小椋佳氏を初めスタッフが全てを投げ出して【や~めた!】を決め込んだ時これに未来を託した子供達の夢も墜えた!。罪な事だ。思えばそれ以来時代は移り現在に至るも日本の芸能界は【十年一日の如く】何んの進歩も遂げていない。そんな業界の身近に今だ生きる私だけが感じるこの感覚はやはり私だけの特有の想いなのだろうか?正直、良くは分からないのであるが…!。