1988年のシーズンニューヨーク。
メトロポリタン歌劇場において
世紀のテノール、
ルチアーノ・パヴァロッティの
リサイタルが開かれた。
当時まさに、その絶頂にあった
パヴァロッティがオペラの殿堂
メットにおいてオペラ本公演では
なくリサイタルを開催した事自体が
画期的だが、その歌唱の見事さは
今まで数多く我々の耳を
満足させてくれたテノール達の
その名演の中においても
ひときわ素晴らしい、輝かしい
栄光に映えるものであった。
マエストロ、
ジェームズ・レヴァインの
冴えざえとした、そして
超絶的テクニックに
裏打ちされた、これ又、名伴奏に
乗って歌われた数多の名歌は
今持って、その輝きを失う事なく
永遠に演奏史にその日の興奮と感動
を刻み込み伝えられて行くに
違いない。幸いにも我々は
20世紀と言うまさに、
【映像】の時代を経て
今日に至っている。
このコンサートの模様は現在も
大変高いクオリティーを保持し
つつ、その映像と音声を
維持している。レーザーディスク
全盛時に私はこの貴重な記録を
手に入れたが、久々に再生してみて
改めてこの偉大なテノールの
神懸かり的ベルカント唱法の
素晴らしさに、感嘆した次第だ。
私自身も声楽家として
45年間、歌い続けて来たが
この間パヴァロッティ、ドミンゴ、
カレーラスと言う三大テノールの
歌唱に少なからず影響を
受けて来た。芸術と共に歩んで来た
この人生において、この類稀な
三人の天才歌手の絶頂期から
黄昏までを、リアルタイムで
知り得た事は今更ながら
何んと幸運であった事か!
それはまさに計り知れない。
今は亡き【栄光】のテノール、
ルチアーノ・パヴァロッティ。
もう、あの輝かしいハイCを
オンタイムでは永遠に聴く事は
叶わないが彼が残した膨大な
歌唱記録はこの先、人類が
滅びぬ限り永遠の生命に満ち、
伝えられ続けて行くに違いない。
取り分け、このメット公演は
聴く者の心をつかんで離さない
珠玉の名演である事は
疑う余地とてない歴史的記録
である。
大袈裟な事を言う様だが、
まだこのリサイタルの模様を
未体験のまま、お聴きでない
諸兄が居られたら申し上げたい。
地の底を這ってでも
この貴重な記録を手にお入れに
なる事を心からお薦めする。
それだけの大きな感動が
この映像には宿っている。
お疑い無きよう。
決して嘘ではない!。
(ルチアーナ筆。)