満たし得るもの”。【アナと雪の女王】 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
加えて参ります。現在小説 愛のセレナーデと、
クロス小説 ミューズの声を随時掲載中です。
こちらもご覧頂ければ幸いです。

ディズニー・アニメーション
「アナと雪の女王」世界的な
言わば爆発的大ヒットである。
世界各地で記録的動員数を
上げ、その記録は
今も尚、更新中と聞く。
私は先述、日本語吹替え版に
おける松たか子の極めて上質な
アフレコとその歌唱力に
惜しみ無い賛辞を表明したが
あのエルサのテーマ
【Let.it.go】に寄せる人心の熱狂
が如何なる心理から生まれるのかと
考えた時、私はやはり音楽家として
はた…っと心に想起する事に思い
至る。コード進行、ハーモニー、
理論的に心をつかむ作曲技法上の
要点を憎いほど熟知した創作の
妙、洗練されて尚、強い意志を
表明してやまない、
その歌詞「英語」の一途で
実直な想い。この曲が
深く持ち得た楽想の根底には
熱い音楽の息吹、血潮が
みなぎっている。
だがその想いは、
それを的確に体現し得る
歌い手の技量なくしては
断じて成り立たない。そこで
これが上映各国にディズニーから
課せられたハードルとして
エルサ&アナ共々単に
吹替え担当者と言う枠を超え
優れた歌い手である事も絶対条件
として示された訳である。
我が国では松たか子、神田沙也加が
その任に当たり期待に違わぬ成果を
得た。特に松たか子は本編で
圧倒的な歌声を聴かせ我々の
度肝を抜いた。タイトル歌唱の
May・Jも見事な歌唱であるが
松の歌はそれに匹敵して尚、
余りある程インパクトの強い
ものであった事を見逃せない。
【Let.it.go】何故皆、この歌に
熱狂するのか?!。
エルサへの想い入れ、共感!。
夢の様な映像美への賛辞!…
確かにそれもあろう!。
しかしそれ以上に
私は音楽の持つある意味で
最も単純な理由、即ち美しく
しかも壮大なあの開放感に満ちた
旋律、メロディーに完全に人々が
酔ってしまったのだと…!
しかも何処の国でも
最高の歌唱力を持つ者が
歌っているのだから…!。
特に我が国はどうか?。
エンタメ界の現状、
これはもう著しい劣化が
進むいっぽうだ。
まともに【歌】だなどと大見得を
切って言える様なものは皆無。
歌い手に至っては限りなく
ゼロに近い。
そんな時ディズニーが生んだ
この作品が…この歌が眼前に
現れた。飛びつかない訳がない。
この曲こそ慢性病にかかった
我が国エンタメ界に
治療の為、投与されたカンフル剤
の様な、まさにそう言える
ものだ。人々が追増忘れていた
本当の本物。それに気が付いた
その瞬間、この歌は爆発的ヒットと
なったのだ。
ディズニーと言う
アメリカン・ドリームの頂点に
君臨するエンターテイメントの
宝庫から本の僅かな
贈り物として我々のもとに
届けられた【アナと雪の女王】。
その中核を成す【Let.it.go】
ここに内在するものは
確かに何かを【満たし得るもの】
それは見る者、聴く者が
散々追い求めて来た真の歌、本物
の姿を体現する事であったのは
明らかだ。
(ルチアーナ筆。)