テルマエ・ロマエ”に聴く…。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
加えて参ります。現在小説 愛のセレナーデと、
クロス小説 ミューズの声を随時掲載中です。
こちらもご覧頂ければ幸いです。

今話題の映画
「テルマエ・ロマエ」。
古代ローマの風呂(テルマエ)作り
の職人が現代日本にタイムスリップ
して丁々発止、風呂文化の
全てを持ち帰りローマ帝国各地で
新しいテルマエ・パラダイスを
展開して行くと言う誠に荒唐無稽な
物語。日本のコミックが原作の
この映画も本作がPart2。
相変わらずのドタバタの連続で
笑いも絶えず興行収益も
上映中の邦画作品全体の中に
あって抜群の成績を得ている
との事を既に耳にしているが
その「テルマエ・ロマエPart2」
を仕事の合間をぬって見て来た
のだがこの映画、劇中に
散りばめられている音楽の
殆どがイタリアオペラの
有名どころを網羅した選曲と
なっている。特に私が敬愛し
自身のレパートリーの中心に
据えているプッチーニの諸作品
からのチョイスは嬉しい限りだ。
しかし、これらの音楽は
どこをどう見てもこの映画の
ストーリー展開とは何一つ
関係がない。要するにオペラの
内容とこの映画のストーリー
との間には何んの関連性も
ないと言う事だ。…であるにも
かかわらず何故か、古代ローマの
繁栄、抗争、人々の生活行動、他
悲喜交々の情感の赴くまま、
それらの描写にピッタリと
寄り添って見事にストーリーの
流れをバックアップしてしまう
のだから、考えて見ればやはり
クラシック音楽の持つ
芸術的普遍性の底知れぬ力とは
桁違いのパワーを持っているのだと
この映画を通し以外にも改めて
感じさせられた次第だ。
しかもこれら一連の選曲は
オペラのアリアが中心であって、
そのせいかローマを
舞台に進められるドラマへ容易に
はまる要素が内在しているのでは
ないかとさえ思えて来る。
「アイーダ」「トスカ」
「パリアッチ」「トラヴィアータ」
「トゥーランドット」etc、
個々のオペラの物語の
基盤を成す諸々の
内容も時代も、場所も、
勿論登場人物のキャラクターも
全てが違う。だが何故かこの映画の
中で統合して物語を盛り立ている。
奇異なる事この上ない。
クラシック音楽は取り分け
オペラは必ずしも一般的な認知に
至っていない側面がある。
その事は残念ながら否めない。
本来、接すれば接する程、
これほど深く感動的で
面白くもある言わば総合芸術は
他に類例がないのだが…!。
私は思う。きっかけは
何であれ一向に構わない。
多くの方々にオペラを見て聴いて
頂きたい。クラシック音楽は
オーディエンスに対して決して
サービス精神旺盛とは言い難い。
見る方が、聴く方が寧ろ
積極的なアプローチを心掛けねば
ならない。でもそんなリスクも
一瞬の内に潰えて余りある感動を
与えてくれもする。
それがクラシックである。
映画「テルマエ・ロマエ」は
肩のこらない小洒落た俗に言う
B級作品だが、使用された音楽は
極上のクラシックであり
オペラである。ここに聴く音楽は
最上級の芸術なのである。
きっかけは案外と近場に
転がっているものだ。
この映画を見て、これを機に
最初はついでで結構!。
クラシック音楽にオペラに
興味をお持ち頂ける事を
今年で歌い手としてのキャリアに
終止符を打つ私から
多くの方々に最後のお願いを
して置く事にしたい。
どうぞ暫しお耳をクラシック音楽の
世界へとお近づけあれ…。
そして後は誘われるがままに
お傾けあれ…。
それから後は感性の赴くままに
ご対応を…。申し上げる事は
これだけだ…。
(ルチアーナ筆。)