オーケストレーション”。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
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フランス音楽を20世紀前半期に牽引した業績において、やはりモーリス・ラヴェルの名を上げない訳にはいかないだろう。作曲家としてはその作品数においても作品ジャンルにおいても、偏りは一切なくその全てにおいて熟考を重ねて作り上げられた秀作の宝庫である事は今更言うまでもない。しかし私はここで彼のもう一つの天才的【技】に付いて触れてみたい。それは編曲、いわゆるアレンジの驚愕的な力量である。そして又、特筆すべきはそのオーケストレーションの絶妙な構成力の見事さだ。私は良く思う事がある。それは
ラヴェルと言う人に委ねれば、どんなつまらぬテーマでもきっと極上の楽曲に練り直し壮大な管弦楽曲に仕立て上げてしまうのではあるまいか…っと言う事だ。しかし当然それは創作者ラヴェルが与えられたテーマにあくまでも創作意欲を掻き立てられるか如何かを起点に始まる話ではあるのだが…。まあ、それにラヴェルは既に故人でもある訳でこんな話は今更、極めて現実的ではない事ではある。しかし私はムソルグスキーの代表的ピアノ曲、長大華麗な組曲【展覧会の絵】のラヴェルによる管弦楽編曲版を耳にした時、そのスケールと原曲の素晴らしさを踏襲しつつも尚、一層の音楽的インスピレーションを大きく発展させた新たな深い芸術的創造の世界を垣間見た想いに熱い衝撃を受けた思い出がある。そしてそのイメージは初視聴から数十年経過した今も全く変わる事がない。これは最早ムソルグスキーの原曲を元にするもラヴェルの思考に基づく全く新たな創作そのものである。プロムナードから各楽器群の特性を最大限に引き出し自在に音色を制御し音楽によって【絵】の実像を描き切る音のバーチャルリアリティーの体現だ。【展覧会の絵】がつまらぬ曲である筈がない。ピアノ原曲そのものも大変優れた名作だ。だがラヴェルに、ひとたび創作意欲が湧き出たとしたなら、それは例えそれが【展覧会の絵】で無かったとしても、後世の我々は全く違う、でも尚且つ優れたラヴェルの管弦楽アレンジを聴く事になっていただろう。そのオーケストレーションは絶妙の極み!。とにかくオーケストラが良く鳴る。オーケストラを上手く鳴らせなかった作曲家も多々見受けられる中これに長けた作曲家のまさにトップクラスに位置するのがモーリス・ラヴェルなのである。「ラ・ヴァルス」や「ボレロ」など聴き慣れた名作も多数。ラヴェルの管弦楽曲は聴き所満載である。どうぞラヴェルのオーケストレーションの見事なまでの技を体験して頂きたい。高らかに切なる希望を申しあげておこう!。
(ルチアーナ筆。)