「え~何が何だが、訳が分からなくなっちゃいました。嘘でしょう!」
私、心の中でそう叫んでいました。
まゆ美先生がそんな恐ろしい病気だなんて…。薫「ねぇ~ねぇ~菜緒、
ちょっと…!」菜緒「はい先輩。なんですか?。」薫「しぃ~!もっと小さい声で…。」菜緒「あっ!ごめんなさい。でっ!何ですか?。」薫「それでさぁ~、まゆ美先生どうなるの…って聞いてみて!。」私の真後の席から田代先輩、小声で私に質問しろって仕切りに言って来るんです。星野「さぁ~それでは、今日は学内公演も近く迫って来ているので選抜キャストに冒頭から歌の精度確認と言う事でそこに絞って研修してもらいますので、他の諸君は今日はそれを聴いて、自己の研修の糧にして下さい。尚ですね。連日ですけれど選抜キャストにはその後改めてホールへ移動してもらってリハを続行しますので宜しくお願いしますね。」奈緒「あの~すみません。」星野「はい!どうぞ…。」奈緒「あの~話を戻して申しわけないのですけれど市澤先輩に伺いたいのですが宜しいですか?。」サヤ「はい!何…。」奈緒「あの、それで、まゆ美先生なんですが、大丈夫なのでしょうか?」サヤ「あぁ~御免なさいね。私もさっき電話連絡を受けただけで詳しい事は何も分からないの…。でもね。ウチの母ね。根がしっかりした人だから…多分大丈夫だと思うわよ。必ず大学へ戻るって気持ちで頑張って身体を治すと思うから…。とにかくね私もね~。治ってくれなくちゃ困る訳よ。もう直ぐリサイタルもあるし、三月にはイタリアへ行くのね。それまでには何とか…ね!。皆んなも心配してくれてるんだと思うから、その事は今日帰って伝えておくから…。入院は来週、木曜日。手術らしいけど、でも大丈夫、絶対!。そんなところね。さぁ~じゃ、アンサンブル始めましょう。星野先生に今日は私も色々、言っても良いって許可もらってるから言いたい事言わせてもらうから…でも私はまだ人に何か教える様な事出来ないから、ちょっとしたアドバイスだと思ってね。じゃ、改めて宜しく…。良い?このくらいで…。」奈緒「はっ、はい!ありがとう御座いました。」私、田代先輩に言われたからではなくて、私自身がもっと色々聞きたい事があったんですけれどサヤ先輩があまり、まゆ美先生の事をこれ以上話題にしたくない様子に思えて、どうしてもそれ以上は質問出来ませんでした。星野先生の監修によるモーツァルトの歌劇「バスティアンとバスティエンヌ」の学内本公演に向けた今日の研修は色々な意味で私も大いに勉強になりました。選抜キャストの先輩達も勿論、歌の上手さでは皆んな秀でた方達なんですけど、要所要所で星野先生に促されてサヤ先輩が歌う本の僅かなフレーズ、そのワンフレーズにこれがお手本…等と手軽にはもったい無くて言えないくらいの感動があるんです。サヤ先輩!やっぱり何かが違います。このまま直ぐにでも大学で声楽科の教授になって私達にずっと色々教えてくれたら良いな…なんて正直、思ってしまいました。それに何と言ってもサヤ先輩、本当に可愛いし綺麗なんです。後輩の私が言うのも失礼だとは思うんですけど、これでサヤ先輩、結婚してるんですよね。奥様なんですよ~。信じられない…!。今日は90分にも及んだアンサンブルの研修の間中、矢つぎ早に問われる歌唱に付いての質問に星野先生をしのぐ程、積極的に答えてくれてしかも、言い方が親しみやすいんで私達も変に緊張しなくて済んだんですよね。本当に素敵な先輩だなって今日はつくづく思いました。サヤ先輩は今後、リサイタル、留学、それに先駆けてCDデビューもされるんです。お母さんのまゆ美先生の事もあるし日々大変なんだろうな…っと思いつつ、私達ゼミ生皆んなで終了後はサヤ先輩を見送りました。きっと忙しいんでしょうね。お出ししたお茶の一杯も飲まないで足早に帰って行かれました。薫「奈緒…!ちょっと。」奈緒「はい先輩!。」薫「今日はありがとうね。質問とかさせちゃって御免ね。私以外にあ~いう時に前に出られないのよね。奈緒がいてくれて本当、助かったわ…。」奈緒「い~え!私も聞きたい事だったし構わないですよ。でもあんまり、まゆ美先生の事は聞けませんでしたね。」薫「そうね。でも又私は一層、想像力の掻き立てがいがあって良いとも思ったわ!。」奈緒「えぇ~まだ何か想像しちゃう事あるんですか?サヤ先輩もすごいけど田代先輩も別の意味で凄~い!。」薫「あら、そうかしらね…!。」
(続く。)ルチアーナ作