「ムーンさん…。しっかり。大丈夫?」妻の声だ。そう私はどうしていたのだ…。酷く頭痛が襲って来て、その後…?今、私は寝室のベッドの上。
妻に尋ねた。経緯はこうだ。私は激しい頭痛に襲われた直後、意識を失い村田夫妻の援助により寝室に運ばれ直後に救急搬送され相応の処置が施され、意識障害も現段階では懸念に及ばないないとの診断で何と病院から返され、今、ここに戻っているというのだ。疲労も重なって居り、現段階では睡眠に移行している事が脳波診断で明らかになった為、睡眠導入剤を追加投与、睡眠を堅持してその後自然起床を促したっと、まぁこう言うことらしい。
それにしても自身が知らぬ間に入院しそして退院をしていたとは!。何という事か!情けないし俄かには信じ難いが確かに私はこうして我を取り戻し妻の見守る前で目覚め、話を聞いている。しかもここはまぎれもなく我が屋敷だ。しかし、あれから時間はどのくらい経過したのだろう?。「一昼夜!!」そんなに!驚きだ。待てよ…。すると今日はあの招待客が来る日ではないか!NoonMooonの二人が…。おぅ!確かに記憶もしっかりしている。「マミー、今何時頃?」私の問に妻はまだ朝の7:30頃だと答えた。私は恐る恐るベッドから起き上がってみたが不思議ともう頭痛も完全に治まり、寧ろ気分は快適な程だった。「そうだ、サヤは…!あの子はどうした?」妻は笑いながら答えた。「あの子だったら地下のレッスンルームにいる筈よ…。冒険ですって。」何という奴だ!仮にもこの私が倒れて意識がない程で入退院したというのに…!冒険!「あっ、それからNoonMooonのお二人だけど、おもてなし準備はもう出来ているわよ。心配しないで大丈夫だから…。」妻は私の病状を心配してくれつつも、現状を充分踏まえて対応してくれている様だ。ならば今は、いや当面は私の身体は何とかなるという事なのだろうと…。妻(まゆ美)「あっ、そう言えばサヤちゃんだけれどムーンさんの事、凄く心配してるわよ。ああ見えてあの子も気がかりなのね…。だってね~ムーンさん、あの子にしてみれば大変な恩人ですものね。そう、それからサヤちゃん、ムーンさんが目を覚ましたらこう言っておいてって…。あのね【私の事、これからは君って呼ぶのやめてサヤって呼び捨てにして】ですって…。」私(市澤)「ふぅむ、分かった!さあ起きるよ。もう大丈夫…!私にとって本当に時はカネナリだからね!やれる内にやれる事は全部やっておかないと…!。」私はそう妻に語りかけベッドから起き上がり早速行動を開始した。妻からはくれぐれも無理はしない様、諭されての話ではあるが…。洗面を済ませ私は地下レッスンルームへ…。サヤも今日はまだ朝食を済ませていないと聞き、先ず私はあの子を食事へ誘う事を考えていた。私自身も今日は朝食が取れそうだ。気分は益々良くなって来ている。B1”エレベーターの着階ランプが点滅、扉が開くと何やら歌声が聴こえる…。瑞々しい透明感に富んだそれでいて尚も奥行きのある響きを保って流れる美声…!心を奪われそうな優美な歌声…。まさか…!!。一番広いレッスンルーム1”中にいるのはまぎれもなくサヤだ!。扉を半開きにしていた為音が漏れ聴こえてくる。そうだ部屋にいるのはあの子だけだ。大変だ!。私は廊下隅のルームホンで直ちに地下レッスンルームへ降りて来る様、一階にいる妻に連絡した。何事かと思ったのか怪訝な顔で程なくこの場に現れた妻に私は唇に人差し指で縦割りの仕草【シーの形】を示し、暫し二人でサヤの歌声に注視しつつ耳を傾けた。何を歌っている?あぁ~、私達が一昨日この部屋で歌っていた。モーツァルトだ!「ドン・ジョバンニ」だ…!。勿論イタリア語ではないスキャットだ。「ラーラララーラーラーラ…」私達は驚愕して身体が打ち震えるのを感じた。「サヤちゃん!」妻が声をかけた。「あっ!や~だ!マーママ、あっムーパパもいるの?一昨日と反対じゃん!今日は私が聴かれちゃったみた~い!あっそう!ムーパパもう大丈夫なの、ヤダもう、心配したじゃ~ん勘弁してよ…!あっ、それからこの部屋、勝手に入ってごめんね~!でもピアノとか、大事なものは全然触ってないよ!本当だよ。だから許して、怒んないで…。」私(市澤)「いっいっ…いや、一向に構わないさ。何処で何をしてももうここは君の家なんだから…。」サヤ「あぁ~また君って言った!サヤで良いってマーママに言ったのに…!聞いてないの?」妻(まゆ美)「あら、そうだったわね。ごめんなさい。ムーンさん、だからその、そう言うことだから」私(市澤)「あ~ああっ!そうだ、そうだ。お互い他人行儀はもうやめなきゃね。う~んそうしよう!」私と妻は完全にどぎまぎしてしまいサヤの前で何やら醜態をさらしている様な状態となった。サヤの歌声はそれほど素晴らしかった。私達は完全に打ちのめされた思いだったのだ。サヤ「どうしたの~、二人とも何か変~ん…!」サヤは自身の声が私達を大いに感動させているなどという事は考えてもいないのだろうか?。私(市澤)「じゃ~サヤ!う~んサヤで良いんだよね!。」サヤ「うん…。」私(市澤)「あの~聞くけれど今歌っていたあの歌ね、どこで覚えたの?」サヤ「あぁ~今の~!あれはさ、一昨日ムーパパとマーママがここで歌ってたじゃん。それ…覚えたの!綺麗な曲だなって思って…。ね~ね~ね~!この曲さ~何て曲?。」妻と私はお互い顔を見つめ合いため息交じりにサヤの言葉にもののやり場を失い、立ちすくむしかなかった。「ムーンさんどうしましょう?。」「どうしようマミー!」二人で今交わせる言葉はこれくらいしかない。ルームホンの呼び出し音が響いた。村田夫妻は私達が余りに朝食の時間を引き伸ばしたので心配してくれていた。私達はサヤが今、突然やってのけた奇跡の様な話を先ずはさて起き皆でDKへ戻りこう決めた、NoonMooonの二人が間も無くここにやってくる。食事は彼女達と共にブランチにしようと…。もうお昼真近である。村田さんは既に申し合わせの通り清純コンビを駅迄迎えに行ってくれている。芳子さん、それから今日は妻も共にブランチの用意に改めて取りかかっている。全て余念が無い。サヤはと言うと「ちょっと着替えてくる~。!」これだ…。ゲストルームからの引越しもまだの様だ。妻から聞くとあの部屋がやけに気に入っているとの事。しかしいずれ、そうはさせない!サヤ「お待たせ…!じゃ~ん、これ今日のコーディネート!似合う~ね~。マーママ、芳子さん、それからえ~と、ムーパパも…。見て見て!。」それから?ついでの様に言うな!私は又、心の中でつぶやいた。しかし実に癪だがサヤは綺麗だ。今日の衣装はブランド品なのか?妻のお下がりか?。分からないが、ただ淡いソフトグリーンその配色だけは目に映える。そしてあの歌…。どうする…!!。村田さんが戻って来た。村田「先生…、若くて可愛いお二人、お連れしましたよ!。」「こんにちわ…。」NoonMooonの二人がやって来た。「いらっしゃい!」最初に二人を出迎えたのはサヤだった。あの衣装、あの容姿、可愛らしい顔。…で、やる事は小学生並み…。来客を出迎えるのに何だ、あれは…?「NoonMooonの二人だ!。うむ?、この前の路上での彼女達とは今日はちょっと違うな~」またもや私は心でつぶやいていた。
(続く。)
ルチアーナ作