深セン・シンガポールのメイク文化『メイカーのエコシステム あたらしいモノづくりがとまらない』 | 3Dプリンターにバンザイ

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2014年の年末に深センに、深センのハードウェアスタートアップを訪問したり、基板工場やプレス加工工場をめぐるツアーに参加しました。ツアーの発起人で、前職の同僚でもある高須さんが深センにおけるメイカームーブメントについての本『メイカーのエコシステム あたらしいモノづくりがとまらない』を出版しました。

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先日読み終えたので、その感想を書こうと思います。高須さんには会社のプロジェクトではなく、チームラボMake部という社内クラブ活動で特にお世話になり、今ではチームラボの海外広報のような感じで世界を飛び回ってます。

『メイカーのエコシステム あたらしいモノづくりがとまらない』
は高須さんが主に居住しているシンガポールと、世界中の製造業の工場があつまる中国・深センをメイカームーブメントという視点から書いた本です。
メイカーから見た深セン、シンガポールの魅力が語られます。

■街の魅力

シンガポールは数年前に、一人当たりのGDPが日本を越え今では1.5倍ほどになっています。シンガポールという国は、日本ではメディアなどであまり多く語られることがありませんが、本書を読むとその思想や社会インフラは日本より先進的だ思わざるを得ませんでした。ある程度の失敗は許容し、新しいものを受け入れる文化をシンガポールという街が持っているようです。

深センは、中国に製造業の中心として、モノづくりのインフラがとても充実しています。秋葉原の何十倍の規模の電気街や、小規模から大規模までの製造を請け負う組立工場や部品工場、短納期で試作を受注する試作メーカー、輸出するための港があり、香港がすぐ近くある等。中国の人件費が高騰して、各国のメーカーが製造拠点を国内回帰したり、ベトナムやミャンマーなど東南アジアに移動させたりしていますが、それでもなお深センが競争力を失わないのは、このインフラの充実が理由のようです。

また、深センの巨大な製造業のインフラに起業家・発明家を繋ぐハブのような役割をしているseeed studioという深センの会社もあります。本書で紹介されているアクセラレータのHAXは、このインフラを活用するために世界中からハードウェアをベンチャーを深センに集めて製品開発を行わせています。

■人の魅力

街の魅力と同様に語られるのがそこで活動する人たちの魅力です。

シンガポールでは、数学の達人でもあるシェンロン首相、本物のギークであるヴィヴィアン大臣など、科学者やエンジニアの経歴を持つ政治家が活躍しています。ヴィヴィアン大臣は、数年前まで自分でプログラミングを行い、メイカー関連のイベントには頻繁に顔を出すことでも有名のようです。政治家や官僚がメイカームーブメントを論じる時、単に政治・経済の面からのみ語られると、当事者であるメイカーは興ざめしてしまったりするのですが、科学・技術のバックグラウンドがある彼らの発言・行動には、創られるモノや作ったメイカーに対するリスペクトが感じられます。

シンガポールで紹介されるのは政治のトップに立つ要人であるの対して、深センを根城とするはアクセラレータ・HAXのファウンダーのベンジャミンや、深センで起業家・夢想家からの小ロット生産を請け負うseeed studioのエリック・パン、製造現場からの叩きあげで深センで電子機器の製造受託工場を始め、いまではODM(設計・デザインから製造まで受託)を行うジェネシスの藤岡さんなど、草の根的な活動を行う人々です。彼らから感じるモノづくりへの愛情とともに、起業家的な多少山っ気な部分も魅力です。

■業界をリードする方々からの寄稿

また本書の大きな魅力の一つが寄稿の存在。深センの現状を俯瞰して書いた研究者・メディアクリエイター江渡さん、DMMのMake系サービスの発起人である小笠原さんなど、異なる視点から書かれたメイカームーブメントを読むことができます。これらも高須さんの人脈と人望の成せる業だと思います。

高須さんのボランティアによって、不定期で行われる深センツアーですが、また今度の4月にも行われます(すでに募集終了してしまいましたが)。深センには実際行ってそれらを体験してみるのが一番ですが、ツアーの代わりに本書を読んでみると、ハードウェアベンチャー界隈の賑わいが強く感じられていいかなと思います。