SideS
恋をしたなんて正直俺はどこかで怖がっていた
嬉しさが前面に出てるから自然と気がつながったけど今思えばそう思う。
ある日、普通に前売りチケットを買っていたら突然サイン会で会った人に声をかけられた。
「ちょっといいですか?」
俺は頷いた。
買い終わったし別に用はないし。
近くのファーストフードで食事をしながら話していた。
「最近、私はJのマネージャーに配属されました。 スキャンダルがないかを徹底的に調べたところあなたといる姿を見つけました。 ただのファンじゃない。 恋人ですよね?」
潤のマネージャーか。
いいな~、俺も1度でいいからやってみたい。
「そうですか。 恋人だよ? それがいけない事ぐらいはお互いに分かっている」
そんな恋を認めてくれない人が多いぐらい分かるけど。
でも、別れることは出来ない。
俺はもう既に潤によって開発された身体が潤しか反応しないし。
何より俺の心は潤が奪ってしまったから奪われる相手がいないしどんなに離れても愛しているから。
「分かっていながらも何故辞めないの? あなたはファンとして失格じゃないの?」
失格ね・・・・
俺が? それとも潤が?
「それは否定できない。 けど、恋ってそう簡単に諦めることなんかできない。 だって、お互いに愛しているから。 それに潤はもしばれて批判殺到になったらやめると言っていた。 覚悟はお互いに持ってる」
そりゃ怖いさ。
俺は赤ちゃん産めないし。
お互いの両親が許してくれるかも分からないし
でも、何があっても別れることだけは許さないと潤が言った。
俺も同じ答えだ。
「そうですか。 それがもし週刊誌に載ってもでしょうか」
それは・・・
分かっているけど潤から言われるまでは俺はそばにいたい。
どうしてこんなにも俺は責められてるの?
あなたは潤の人気度には心配してなさそうな声だ。
「すぐに答えられないのが答えなんじゃないでしょうか? 櫻井さん」
「あなたはJの何を心配しているの? 心配なんてしているの?」
「Jの人気が落ちれば俺としては面白い。そこからどうやって人気を取り戻すのかを含めて。 別に人気が落ちなくても矛先はあなたに向けられるでしょう。 あー、それと俺は二宮和也です」
二宮さんは俺が気に入らないんだ。
潤よりも。
なんで二宮さんマネージャーなんかになったのかよく分からない。
「そんなに言いたいなら言えばいい。 面白くなんかない。 二宮さんは潤のこと分かってない。俺が弱点かと思っているなら違うと思う。 だって潤は常に前を向いている人だから」
俺は店を出て家に帰った。
「しょおくん」
「来てたんだ」
俺の家に既に潤がいるのは嬉しい。
あんなこと言ったけどほんとは自信なんてないし俺は強くなんかないからわざと本気を出さずに程々でいられて前に立つことを無くして。本当はいつもオロオロしちゃうから。
「何かあったな?」
確定の話じゃないけど。
言った方がいいのかな?
「潤、二宮さんに会った」
「え? 二宮?」
「うん、そう 」
「人のプライベートを色々と聞いてくるから嫌だったんだけど。 俺はしょおくんのことは一言も話してないから調べたんだろう」
うん、潤が話したとは思ってない。
「しょおくん、辛いんじゃない? しょおくんは目立ちたくないんだよね?」
「そりゃネットで拡散されたら一気に知られちゃうよね」
「でも、しょおくんは自信が無いだけなんじゃない? ひっそりこっそりって1番辛い生活かも。だって、目立つ生活をしないってなかなか難しいし。 しょおくんの本気を見せてみたら?」
「本気?」
「一般人だから規制は入るけど。 しょおくん、やりたいことやれてる?」
やりたいこと・・・
俺の家系は代々医療関係者だ。
でも、俺、医者になりたいわけじゃない。
人を救えるなんて思ってないし俺不器用だから向いてないと思う。
俺、別にやりたいことなんてないし。
「潤・・・」
「やりたいことやればいいよ?」
「潤、ありがとう」
俺にやりたいことなんかないけど。
そう言ってくれるのは嬉しい。
それから何日か経つと本当に出てしまった。
賛否両論で潤のマネージャーから潤が仕事できなくなってもいいのかって言われた。
二宮さんではなかったんだけど。
潤の仕事は誰よりも理解している。
だからやめるのは自由かもだけど俺が決めることじゃないしまだそう決まっていない以上俺からは近づかないようにしないと。
俺が邪魔してるってことだよね。
俺は久しぶりに実家に帰ることにした。
相変わらず沢山の人が並んでいたな。
「帰ってきたんだ」
「ダメだった?」
両親の関係は微妙だ。
良くもなければ悪くもない。
「そんなことない。翔は辛い時とか苦しい時ほど笑顔でいて溜め込んでません的な顔をして。何も言わないから最初は分からなかった。 けど、翔が医者にならないって言った時に思った」
「お母さん・・・」
「翔はそれだけではないけど本当は抱えていたんじゃないかって。 色々と言いすぎたし。 ここにいた時よりも幸せそうな顔をしていた。 それはつまり翔はそれだけ心を許せてる人なんでしょ?」
常連さんから聞いたのかな。
お母さんは面白そうに言ってきた。
「常連さんは翔が心配なのよ? 約2割が翔の顔を見たい人が来てるようなもんだよ?」
「え? そうなの?」
「そうだよ。 彼氏とは幸せなんでしょ?」
「うん、まぁそうだね」
「まぁ小さい頃は泣き虫くんだったからグズグズしてるんじゃないでしょうね? 」
「お母さん・・・」
「ね、誰といて幸せなの? それが全てなんじゃない?」
全て・・・
散々悩んで迷って・・・
でも、潤が好きな気持ちはどうしても消えなくて。
「お母さん・・・」
「あら、甘える時はその呼び方じゃないでしょ」
「ママ、ありがとう」
「私に出来ることは特にないわ。 でも、こうして背中を押すことは出来る」
久しぶりにこの家で泣いた。
「しょう、裏切っちゃった」
別れようと考えていた自分。
それは潤には言ってなくても思ってしまったことも裏切ることになる。
「それは思い留まったなら裏切りではないんじゃない? 正直に話すことが彼氏さんに対しての誠意なんじゃないかな?」
「正直・・・」
「何事も思ったことを言うことが必要なんじゃないの? 調べたらとっても人気なモデルさん。 その中で翔が恋人として選ばれたなら掴みなさい? 潤さんは翔を離さなくても翔が離しちゃえば追いかけて捕まえてはくれると思う。 でも、それが永遠にそうなるかなんて言える?」
そうだった。
永遠なんて簡単には言えない。
話してみなきゃ何も解決しない。
「あなたのママでいられて幸せ。 問題あるかもだけど頑張りなさい」
「うん」
「今日はしっかり食べてしっかり寝て明日きちんと考えないさい」
それから夕飯の支度をしたり久しぶりに家族とご飯を食べた。
「何しに来たんだ?」
相変わらず冷たい父。
だから何も言わないもん。
「あなた。そうやって追い詰めるのはやめて。
価値観を無理に押し付けるのもいい加減やめなさい」
「病院が潰れるんだぞ? 後継者がいないのはこの地域の医療が負担になることに繋がる」
そりゃそうかもしれないけど・・・
後継者なんていくらでもいるでしょ?
「後継者なら弟がいるし別に櫻井家に拘る必要は無いのでは?翔は幸せな彼氏と幸せに暮らすの」
ママが頑張ってる。
ママはたまにパパよりも発言力が強くなってパパが黙る時があるからそれがチャンスかな。
「彼氏か? まぁ、彼氏はいいとしよう。 だが彼氏としても医者は出来るだろ?」
「後継者の話は終わりね? せっかく帰ってきてくれたもの。 これ以上文句言うのは許しません」
ママがきっぱりと言ってくれた。
父は何も言えない表情になっちゃった。
小さい頃は恐妻家だったと思うけどちょうど大人の半分の時ぐらいから父の発言力が高くなったと思う。
おじいちゃんが生きてたらそれこそ男と付き合うこともダメだったかも。
「ありがとう。 医師にはなれない。 看護師にはなれない。 けど、医療関係に携わることは出来なくはないよね?」
妥協って形かもだけど。
自分に出来ることはこれ以上ない。
「そうね。 放射線技師、臨床検査技師、医療事務など色々とあるね。 翔、病院ってここは診療所だからそこそこだけど。 大きな病院だと広いでしょ? そんなふうにもっと広く視野を持った方がいいと思うの」
ママ・・・
「確かに医者にしかできないこと。看護師にしかできないこと。 大きな病院に行くほど専門的分野が出てくる。 そこでは色んな職種がいる。 手術の時は麻酔科医などと連携したりしてチームプレーになる。 一人一人患者の命を救うきっかけになるってことだな」
父さんが分かってくれた。
良かった。 できないことの方が沢山だけど。
それでも出来ることを少しずつ見つけたい。
「あらあら、可愛い」
「それだと確かに彼氏が必要になるな」
また泣いちゃった。
恥ずかしいけど嬉しかったからしょうがない。
「ふふっ、うん」
それからは楽しそうにお話が始まり心も落ち着いてちゃんと話せた。
お風呂に入って髪の毛を乾かした後どうしようかと迷った。
潤に帰ると連絡した方がいいかな?
でも、潤の家で待っていればサプライズになるよね?
贅沢な悩みかなこれって。
でも、やっぱりおかえりって言ってあげたいな
だって、好きな人がただいまって言ってくれるとドキドキするもん。