DAZNでは試合前のスタンドが映し出されていた。
鶴を思わせる赤白黒柄の旗が無数はためく。
まるで仲間の窮地を救おうと飛んできた鶴の群れのよう。
楽しげ、というよりもどこか「負けられない！」と鼓舞しているかのようだった。
背水の陣
そんな佇まいだった。
一方の讃岐。
モリの試合後の話によると、讃岐はなかなかのハンデを背負ってこの試合に臨んでいたことがわかった。
なんとチームは悪天候の影響で木曜日に現地入りしていたという。
ホテルも転々として、そのなかで知らない土地での練習、しかも悪天候で2日とも違う場所での練習だったそうだ。
知らない土地で3泊も4泊も…それだけでおじさんならヘバっちゃうよ（苦笑）。
そんなチーム事情があって、讃岐は早めに仕留めようとしたのだろうか。
試合開始早々から高いテンションでハイプレスを繰り出してボールを奪いにいく。
試合当日の気温が比較的涼しかったことも手伝ってフルパワーで岩手を押し込んでいった。
岩手の狙いは讃岐・最終ラインの背後にボールを送って裏を取ること。
それは河辺駿太郎＆深堀隼平というスピードが武器で裏抜けが得意な2トップを並べたこと、その後ろの列にスピードのあるオタボーケネスを置いたことからも明白。
しかし激しいプレスによってビルドアップはままならず、狙い通りのロングボールを蹴ることもできず、讃岐は3CB中心に易々とボールを回収していた。
5分、岩手は右WBの水野颯太がロングボールを蹴ったが簡単に深港壮一郎が回収。
ふかみーから吉田源太郎に繋ぐいつものカタチ。
ドリブルで少し運んで森川裕基にスルーパス。
モリはボールをコントロールしながらドリブルで前進、げんたろーへスルーパスを放った。
長く讃岐を応援してる人たちには胸熱な新旧11番の連携！！
これもげんたろーに通って柔らかいクロス！
これは少し風に乗ったのか枠を捉え、慌てて大久保拓生がパンチングで掻き出して難を逃れた。
このコーナーキックは防がれたが、讃岐はまたしても相手CB深川大輔の蹴ったボールを回収。
長谷川隼＆吉田陣平のダブルボランチに森川裕基も絡んで小気味良いパス回し。牽制する岩手勢を軽やかにいなしながら「その時」を待つ。
そして「その時」はやってきた。
じんぺーちゃんがボールを持つと、サッとモリが指を差す。
そのままオタボーケネスの背後を突いて斜めに走り込んでいく。
じんぺーちゃんは縦方向にスルーパスを発射！
絶妙なタイミングで受けたモリは利き足ではないが数多ゴールを奪ってきた左足を振り抜くっ！！
このシュートは深川大輔がシュートブロックに入ったが、GKの大久保拓生も反応していて倒れ込んでシュートコースを塞ぎにいっていた。
この機を夏の五車星「風の救世主」は見逃さず！
左がダメなら右でどうだ！！
そう言わんばかりに右足を振り抜いた！！
「頼む、モリ！讃岐を救ってくれ！！」
レジェンド木島良輔に託された想いを乗せて突き刺した一撃は"移籍後初ゴール"。
それはほんのりとキジの実弟、"蒼い旋風"木島徹也の香りがする一撃…
まるで木島ブラザーズを想起させるゴール！！
讃岐先制ーーーっ！！
そして、カメラをみつけるや…
………。
ニヒルだ！ニヒルすぎる！！
昭和のアイドルかぁーーー（笑）！いつからそんなことできるようになったんじゃーーー（笑）！！
控えめで照れ屋で、優柔不断でいじられキャラのモリじゃない！！
そこにいるのは…
風の救世主だーーっ！！
モリーーーーーっ！！
嵐のようなハイプレス。
そして風が運んできた先制弾。
涙味の台風を呑み込んだ讃岐の猛襲。
我々は酔いしれた。
讃岐があれほど過酷な状況で試合に臨んでいたとは想像もしていない我々は、誰もがこれから始まるゴールラッシュに期待を膨らませていた。
15分、内田瑞己がオタボーケネスに倒されてフリーキック（FK）を獲得。じんぺーちゃんがペナルティエリアに向かってボールを蹴り込んでいく。
これをファーサイドで赤星魁麻がヘッドで折り返すが、岩手も懸命にヘッドでクリア。
しかし逃がさない讃岐は岩岸宗志が胸トラップから強烈なミドルシュートぉ！！
来たろ、これぇーーー！！
これは…僅かに枠を外れた。ぬぅ…惜しい！！
飲水タイム明け、まともに攻撃すらできていなかった岩手が反撃を開始。
岩手の左サイドから崩そうとボールを動かしたがクリアされてしまう。
髪を赤く染め、リアルキヅールと化したACの新里涼がこぼれ球を拾い、大胆かつ正確なサイドチェンジを繰り出し、右WBの水野颯太に繋ぐ！
水野颯太はIHの松原亘紀に繋ごうとしたが、このボールを吉田源太郎が強奪！！
この日、水野颯太と吉田源太郎は終始バチバチとやり合っていた。
讃岐のドリブルサイボーグは一気にドリブル突破で前に運び、お返しとばかりに鮮やかな右サイドへのサイドチェンジ！
岩岸宗志がこれを受けてゴリゴリとドリブルで前進、その横をウッチーが駆け上がっていく。
草子からウッチーへ流れるようにパスを繋ぎ、ウッチーがアーリークロス。
ここに森川裕基、得意のヘッダーーーっ！！
しかしやや難しい体勢になったか、シュートは枠を捉えきれなかった。
ぬぐぅぅ…惜しい！惜しい！！
26分には内田瑞己のクロスを赤星魁麻がすらして森川裕基が飛び込むが、僅かに合わず。
深川大輔のサイドチェンジを深港壮一郎がヘッドで跳ね返して始まったカウンターは森川裕基のドリブルからダブルボランチを経由して右サイドのウッチーに繋がりクロス。
これを赤星魁麻がすらして吉田源太郎が右足を合わせたが水野颯太が懸命のブロック。
ムキー！惜しい！惜しい！！惜しい！！！
この時一瞬、脳裏をよぎった。
（このまま…点、入んねぇんじゃないの………？）
＜つづく＞
※読みやすさを考慮して、選手名は敬称略としました。ご了承ください。
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