サブはさっそく湯をわかし、
伸び放題の髪と髭をさっぱりとし、
体を浄めて(そんとき)を待った。
まわりがすっかりと闇に包まれ、
そんときゃ訪れたぁ。
生暖かな風が
「さわっ」
と、サブの頬をかすめたんじゃ。
裏の藪の中から(ふわっ)と、
青白い、何とも不思議な光の玉が現れた。
儚げな光じゃったそうな。
「おまはんがキクか。」
光の玉は何も答えんかった。
少し離れた柵の外で、
じっとサブを見つめるように
たよりなげに浮かんでいたと。
「よし。案内してもらおう。キクの所へ。」
サブは覚悟したように立ち上がった。
光の玉は裏の薮を抜け、
小川づたいに山道を登って行った。
水のせせらぎや風の音も完全に遮断された
異様な雰囲気がまわりを支配していたが
光の玉が放つ灯火は
サブが歩くのに充分なほど道を照らしている。
また、歩くというより
(すうっ)
と、何か別の力に引き寄せられているといった
感じじゃろうか。
もう、かなり歩いたはずなのに
息がきれるという気配も感じなかった。
光の玉は、
とある山小屋の中に入って行った。
もちろん今まで見た事もない小屋である。
(ざわっ)
と、突然、夜風が木々を揺らす音がした。
旅の僧、順覧の霊が、
サブに舞い降りた。
「よし、まいろう。」
「おうっ。」
順覧のかけ声に、サブが答える。
つづく

