Angel's share「エンジェルズ・シェア」 ~天使のわけまえ~(1)
誰も私に“愛”というものをくれようとしない。いつも分け与えるばかりで、もらえるものは貌(かたち)ある物ばかり。
「“愛”なんて減るものじゃなし」なんて思ってたけど、誰からも与えられず、他人に分け与えてばかりいると減っていくんだって、最近やっとわかってきた。
ケンジが私を抱きたがっているのは知っていた。
私はかわりに“愛”をちょうだいと言ってみた。
「いいよ、そんなもんでいいの。」
とケンジは答え、いつもの男たちより激しく抱いた。
「もっとちょうだい。もっと。もっと。」
「もうだめだ。」
「なぜ? もっとほしいの。」
「今日の“愛”はなくなっちまった。」
けっこう人ひとりが持ってる“愛”って、少ないんだ。
街は師走の冷たい雨に濡れていた。
「兄貴ィ。“愛”ってなんなんすかね。」
ケンジが連れのジョウジに聞いた。
「あん? “愛”だぁ? どうしたんだおめぇ。」
「いやね、前から狙ってたいい女がいるんすがね。“愛”をくれりゃ一発やらしてくれるって言うんですよ。」
「で?やらしてもらったのか、おめぇの“愛”をくれてやって。」
「それはそうなんすけどね。」
「じゃぁよかったじゃねぇか。安く上がって。」
「はぁ。」
「なんなんだよ、ケンジ。はっきりしろよ。」
「だから“愛”ってなんなのかと思って。」
「バカかぁおめぇ。ホントの“愛”ってのは、
おめぇに一番欠けてる(まごころ)ってやつだよ。」
「まごころ?」
「おう。オレもそんなもんとっくになくなっちまったけどな。へっ。」
「そいつはまいった。いや、まいった。」
「何が?」
「いや、“愛”をくれなきゃオレを殺すって。」
「そりゃ、やってる時の女の口癖だ。バーカ。」
「違いますよ兄貴ィ。死ぬ死ぬじゃなくて(殺す)って。」
「でも結局死んでねぇじゃねぇか。」
「そりゃまぁそうすけど…。」
ケンジがマルボロに火を付けた。
と、同時にケンジの手からジッポーが滑り落ち、
闇の中に(ガチャ)と鈍い金属音を響かせた。
「ジョウジ兄貴ィ。目が、何だか、霞んで見えない…。」
すでにケンジの体は半分以上透明になり、吸いかけのマルボロとジッポーを残して、やがて、消えてしまった。
to be continue