染井が高校2年生から3年生に進級した春休みのこと。
去る事情から人生で通算5回目の手術をするために入院したものの、貧血がひどすぎて手術が1週間延期し、春休み中に済むはずだった入院生活が1週間延長されるというアクシデントに見舞われておりました。
しかも1週間毎日増血剤の注射(かなり太くて長いのを朝晩2回ずつ)を打ち続けるオマケ付き(泣)
ちなみに入院したのは「迷子」の舞台になった病院です。
本当に経験した怪異③迷子 | 染井的ドールライフ
http://ameblo.jp/39ra-510dama/entry-12240959701.html
「迷子」に出会ったのはいかにも昭和な建物の外来棟でしたが、入院棟は近代的なビルになっていましてオバケに会ったことはありません。
そんなワケで当然、始業式に間に合わず1週間学校を休んで、ようやく退院。
片道2時間かけて帰宅した途端、待ち構えていた弟が「お帰りなさい」も言わずに言った。
「出たよ」
それが退院したての姉にいう台詞ですかコノヤローと思って、無言でいると弟はもう一度言った。
「出たんだよオバケが」
…は?
オバケって、私のこと?
「出たんだよオバケが。今朝、うちに」
ニヤニヤ笑いながら、小出しに情報を口にする弟を無視して部屋に上がろうとすると、彼は慌てて言った。
「今朝、三階の廊下を歩き回る謎の足音を、お父さんが聞いたんだよ!」
うちは三階建ての個人住宅で、一階は店舗と工場、二階は居間や水回り、三階は寝室になっている。
寝室は私の部屋と弟の部屋、両親の部屋に分かれていて、それをつなぐ廊下があった。
「ね、お父さん?」
傍らで仕事をしている父に弟は話を振った。
父は仕事の手を休めて言った。
「夜明けごろ、ふと目を覚ましたら廊下を誰かが歩いている足音がするんだ。てっきり息子(もちろん名前で呼びましたが、仮名にさせて頂きます)のトイレの行き帰りだと思ったんだけど、全然部屋に入らないし…。よくよく考えたら、うちの廊下、あんな大きな音はしないよな~? じゃあ、あの音なんだ~?って」
…いや、あんたも「お帰りなさい」言わないのか。
まぁ、良いけど。
「…で? 誰が歩いていたの?」
染井が尋ねると、父は首を横に振った。
「見てないからわかんない。普段『オバケなんかいないよ。オバケなんか怖くないよ』って言っていても、いざそんな場面に遭遇したら……とても確認なんかできないね(^^;」
…あー、そうでしょうねぇ(;゜∇゜)
そこへ弟が口を挟む。
「そしたら、なんと! 起きてしばらくしたら、オカンの知り合いの訃報が来たんだよ! 絶対、その人がお別れの挨拶に来たんだって!」
私は呆れ顔で弟に尋ねる。
「…お前、その足音とやらを聞いたの?」
「聞いてない!」
弟はきっぱり答えたあとも、父と二人で廊下を歩いて音を確認したことを話していた。
…なんなの、コイツ?
常に自分が話の中心に居ないと気が済まないの?
オバケの話より、弟の自己主張の強さが気になりイラッとしながらその場を後にした。
イラッとしたものの工場を出た途端、頭の中は学校のことで一杯になった。
1週間休んで、多分入院したこともバレてる。
(休み中にコッソリ済ませるつもりだったので、誰にも言っていなかった。)
夕飯を食べたり、学校の準備をしているうちにオバケの話をすっかり忘れて、ベッドに入った。
ふと目を覚ますと、カーテンの隙間から綺麗な朝焼けの光が射し込んで来ていた。
まだ全然早いなぁと思いつつ、二度寝しようと目を閉じる。
しかし、どうにも学校のことが思い浮かんで眠れない。
…っていうか、なんかさっきからうるさいな。
誰だよ、廊下を歩き回っているヤツ。
足音がデカくてうるせーよ!
と思った瞬間、染井は前日の話を思い出してサーッと血の気が引きました。
後編に続く