なんのことか解らず、俺が疑問を口にするとサトミは呆れ果てたと言わんばかりの表情で言った。
「…好きだからイジメる。これってDVと同じ理屈なんだけど」
「そんな大袈裟な…」
タカポンが苦笑すると、サトミが睨み付けて言った。
「子供の頃イチハラくんはね、私と遊ぶこともあったわ。でも、年下の子が何人か一緒に居ると途端に私をイジメ出すの。自分を強く見せたいんだかなんだか知らないけど、かなり迷惑だったわね。でも仲良くしておけばイジメられないかもしれない。そう思うと、誘いに乗るしかなかったわ」
いまだに土下座の体勢でいるイチハラの、薄い後頭部に向かってサトミは言った。
「完全にDVのシステムよね、これ。暴力は怖い。逃げたい。でも、愛してるって言うし、優しい時もあるから完全に背を向けることができないっていうDV被害者の心理と、あの当時の私の気持ちは当てはまるわ。あんたの行動もDV加害者のそれと全く同じ。…好きだったら何をしても許される訳じゃないわ」
反論の余地が無かった。
「それに恋心に免じて許してくれなんて、一番卑怯で最低な謝罪方法でしょ? 周りにいる人は『許してあげなよ』って言い出すに決まってるじゃない。それでも許さなかったら、私が悪いみたいに見られるように仕向けたのと同じよ」
サトミの言葉にイチハラがガタガタと震え出す。
かわいそうだとは思うが、サトミの言うことは的を射てるので否定することができない。
「…これで許せると思う?」
俺たちは言葉を失うしかなかった。
続く