大学の友人と連れだって町を歩いている時だった。
向こうから長い黒髪を縛りもせずに垂らした、覇気のない歩き方をする女性がやって来た。
擦れ違い様にチラリと横目で見ると顔色が異様に青白い。
女性が通り過ぎてから、俺は友人に言った。
「今、擦れ違った女、幽霊みたいだな」
すると友人は笑って言った。
「それ、よくある怪談だろ? 町で見かけた女を『幽霊みたいだな』って言うと、擦れ違い様に女が『なんでわかったの?』って言うヤツ。擦れ違ってから言っても遅いだろーが」
言われてみれば、そんな話を聞いたことがある。
俺も笑うと、友人は真顔になって言った。
「それにしても今の子連れのかーちゃん、顔色が悪かったけど具合でも悪いのかな?」
「…は?」
俺は思わず足を止めた。
「え…?」
俺の様子を不可解に思ったのか、友人も足を止める。
「子連れのかーちゃんって、なんだよ?」
「いや…だから、お前が幽霊みたいって言ったあの人。子連れだったじゃん?」
友人の言葉に先程の光景を頭に浮かべてみるが、擦れ違った女は一人で歩いていたはずだ。
「…子どもなんかいなかったぞ?」
「ええ?! 女の人の後ろからついてきてたじゃん! 黄色い帽子かぶって赤いランドセル背負ったお下げの女の子が!」
友人が焦ったように言うのを聞いて、俺は血の気が引いた。
「いねーよ! こんな真夜中にランドセル背負って出歩くわけねーだろ!! 」
そう言うと、友人の顔色もみるみる内に青くなっていく。
「じ…じゃあ、俺が見たのは…?!」
女が脇道に入っていなければ、振り返れば後ろ姿はまだ見えるはずである。
しかし、俺も友人も振り返ることが出来なかった。
終わり