予言⑥ | 染井的趣味ライフ

染井的趣味ライフ

ドール沼の住人による、ドール沼のブログです。主にカスタムのメモにしていく予定なので、素体写真をあげていきます。ドールや生首や真っ裸が苦手な方はご遠慮ください。ドール以外に介護日誌と小説を始めました。

気がついたときには不思議だった。

目の前にいる人と永遠に別れることが何故、自分にだけ判るのか。

ごくまれにではあったが、ふとそんな瞬間がやって来るのだ。


物心ついた直後、お菓子をくれたり、遊び相手になってくれた近所のおじいさんに今日別れたらもう会えなくなることに気付き、泣いてすがったことがある。

しかし、母親を初めとする大人たちは「そんなにおじいちゃんのことが好きなのね」と、微笑ましげに見ていたものだ。

おじいさんはその夜、心不全を起こして亡くなった。


自分だけが感じるものが『死』というものであることに気づいた時は、とても恐ろしかった。

しかし、『死』はフラりと日常の中に現れるのだ。


小学校に入学した直後、クラスメイトに『死』を感じた。

放課後、校門から出たところでそのクラスメイトを捕まえて「気を付けて! キミは今日、死んでしまうよ」と言った。

クラスメイトが怪訝そうな表情を浮かべた途端、向こうから走ってきた原付がスリップしてクラスメイトを直撃した。

クラスメイトはそのまま帰らぬ人となった。


その後、何度か同じような事が起きて『死』を感じた本人に直接、忠告するのは無駄だと気がついた。

『死』を回避する方法が解ることもある。

けれど、それが功を奏することはまだ無い。

回避法を教えた瞬間、『死』への筋書きが変わってしまうのだ。

だから、彼は遠回しに伝えるのだ。


「ママ、今日は『サヨナラの日』だよ。でも大丈夫。僕から離れていれば、サヨナラしないから」

「何を言っているの?」

母親は上擦った声で尋ねるが、少年は無視して家の外へ飛び出した。

休日で家にいた父親に事情を説明して、息子を探しに出た母親は、息子を見つけた途端、通り魔に襲われて命を落とした。


今朝、父親が『死』を感じると同時に『息子から離れなければ回避できる』ことを知った。

今度こそはと思い、必死に父の側を離れまいとしたが…。


「…無理なんだよ。だって、死なない人間は居ないんだもの。いつか必ず死んじゃうんだから、それが解ったってどうにも出来ないんだよね」

言いながら少年の目から大粒の涙が溢れる。

聞いていた救急隊員は、何を言えば良いのか解らず考えあぐねていると、計器がけたたましい警告音を出した。

横たわる父親の様子を見ていた別の隊員が呼吸を確認した後、若い救急隊員に「アンビューバック!」と叫んで心臓マッサージを行う体勢になる。

若い救急隊員は素早く人工呼吸用のポンプを取り出して父親の口元に宛がった。

「…パパ、ゴメンね」

少年は呟くと、両手で顔を覆って泣き出した。

                                                                終わり