予言⑤ | 染井的趣味ライフ

染井的趣味ライフ

ドール沼の住人による、ドール沼のブログです。主にカスタムのメモにしていく予定なので、素体写真をあげていきます。ドールや生首や真っ裸が苦手な方はご遠慮ください。ドール以外に介護日誌と小説を始めました。

「パパ。だから、僕から離れちゃいけないって言ったじゃないか」

唇を尖らせて少年が呟くのを、救急隊員の一人は聞いた。

「それはどういうことかな?」

患者のバイタルチェックをしながら、何気無く尋ねると少年は口をへの字に曲げて黙り込む。

(無理もないか)と救急隊員は思った。

聞けば父子家庭だと言うし、心細いのだろう。

この状況では楽しくお喋りするという気は起きなくて当然だし、先程の呟きも錯乱のあまり口をついた意味の無い言葉ではぬいだろうか。

そんなことを思っていると、少年がポツリと呟いた。

「…僕には解るのに…」

「え?」

「僕には『死』を感じる事が出来るのに、いつも防げないんだ。ママの時も、今も…」

「何を言って…?」

尋ねる声が上擦るのが解る。

若い救急隊員は、少年の口から『死』という単語が出たため、激しく動揺したのだ。

「キミのパパは大丈夫だから…」

動揺を隠して隊員が言うと、少年は僅かに微笑んで首を振った。

「解るんだ、僕には。パパはもう…」

隊員は「諦めちゃいけない!」と言いかけたものの、ストレッチャーに横たわる男性をチラリと一瞥して言葉を飲み込んだ。

階段から落ちて首の骨を折った男性は、すでに虫の息だ。

「ごめんなさい。一生懸命、助けてくれようとしているのも解るけど…」

こうなったらもうダメなんだよと呟く少年の、膝の上で握り締められた手が震えていなければ恐怖を感じていたかもしれない。

しかし震える小さな手を見て、隊員は悟った。

(この状況を、『死』を最も恐れているのは彼だ)

「すみません、先輩。ちょっと、患者さんをお願いしても良いですか?」

助手席に座る別の隊員に声をかけ、若い救急隊員は救急車の後部ドアに近い椅子の端に少年を座らせ、彼から話を聞くことにした。

                                                                    続く