親子は遅い朝食と昼食を兼ねた食事を、外で取ることにした。
父親は一瞬、家の外に出ることをためらったが、ガスのことを考えればどこにいても同じような気がした。
それに考え出すとキリがないのだ。
家に車が突っ込んでくる危険。
墜落した飛行機が屋根をぶち破る危険。
落ちてくるなら隕石もある。
何を食べても食中毒になりそうな気もするし、心臓発作などの急病だってあり得る。
サヨナラする理由はいくらでもこの世に溢れている。
考えると叫び出しそうなので、気分転換を兼ねて外出することに決めたのだ。
息子は父の手をしっかり握り、ニコニコと嬉しそうに笑っている。
「…随分、嬉しそうじゃないか?」
父親が思わず皮肉めいたことを言うと、息子はニッコリ笑って言った。
「だってパパと出掛けるの、久し振りだし」
父親の良心がチクリと痛んだ。
(…そうだ。妻が居なくなってから息子と向き合うのが怖くて、あまり相手をしなくなったんだ。)
思い至ると益々胸が痛む。
その時。
「…パパ!!」
息子の鋭い声と共に、手を後ろに引かれた。
子どもの力とは言え不意討ちを食らった父親は、勢いよくその場で踵を返す形になる。
その直後、背後で物音がした。
何かが叩き付けられる、重たい音。
途端に悲鳴や叫び声が上がった。
「え…?!」
足元を見ると、赤い液体が飛び散っているのが目に入った。
「誰か飛び降りたぞ!」
「早く救急車を…!」
「ダメだ、もう…!」
人々が口々に叫んでいるのを、意味が解らない異国の言葉のように聞き流しながら父親はガクガクと震えた。
「パパ、大丈夫?」
青い顔をした息子が尋ねる。
「お前、どうして…?」
「上から何かが落ちてくるのが見えたから…。人だとは思わなかったけど」
父親の背筋に冷たいものが走った。
続く