昨年の秋頃から、松井由利夫先生の書かれた詩の奥深さをいっそう感じるようになっていました。
そのことを以前から”書きたいです”とブログに書きながら書けないままでいたのですが、今夜の「NHK歌謡コンサート」できよしさんが「白雲の城」を唄ってくださると知って、先週から、その前には書きたいとずっと思っていたのです。
 
今回のテーマは「私を変えたこの一曲」ということで、出演される歌手のかたたちが、ご自身の人生に大きな転機を与えた曲をそのエピソードとともに唄われるというもの。
きよしさんがなぜ「白雲の城」を選ばれたのか、そのエピソードを聞かせていただくのも楽しみですが、わたしが「白雲の城」といって思い出すのは、2003年に日比谷公会堂で開催された「夜桜演歌まつり」での歌唱。
「白雲の城」はすでに2月19日にリリースされていたので、コンサートや公開放送で何度か聴かせていただいていたと思うのですが、日比谷公会堂でのきよしさんの歌唱に大げさでなくゾゾゾッと総毛だった感触が今でも忘れられません。
コスチュームの袴姿にご自身も心が高揚しているようで、初々しさを漂わせた凛々しさがまぶしかったです。
少し横道に逸れますが、その年の1月に開催された公開収録とコンサートでのわたしの印象を書きとめたメモがありましたので、お恥ずかしいのですが当時の雰囲気が伝わればと思いここに少し書かせていただきますね。
 
「文京シビックで『BS日本のうた』の公開収録。
きよしさんは初のワンマンショー(当時のスペシャルステージはワンマンだったのでした)。
『箱根八里の半次郎』を客席のお客さまと握手をしながら唄っていたときに、ちょっぴりアクシデント。
そのままでも平気なのに、きよしさんの少々動揺された様子が見て取れて、かえってその誠実な人柄が感じられました。
きよしさんて人気稼業なのに実はシャイな方なのですね。
そして収録が終わると、この日出演されていた憧れの鳥羽一郎さんが、きよしさんをあたたかく見守っていてくださっていて、きよしさんはそのことにもまた深く感動し、思いが言葉にならずただただ涙されていました。
初のワンマンショーですもの、とても緊張されていたのでしょうね。
何だかきよしさんの心が伝わってきて、もらい泣きしてしまいました。
いつでも一生懸命なきよしさんにほんとうに励まされます」
 
「市川文化会館でのコンサート。
2003年。非常にはりきっていて驚くほどのオーバーアクション。全身で”ありがとう!”を表現している。
”このままずっとこうしていたいです”という。
ラスト1曲を残してのトークのときに、
”フレー、フレー、きよし!”のコールが起こる(この当時は”フレーフレーだったんですね・笑)。
その日の熱唱に、皆も”ありがとう”一色に!
すると、
”やめてください、もったいないです”と、困った様子。
と思ったら、
「泣かせないでください」
と言って、きよしさんが泣いていました。
猛スピードでトップスターになって、この過密スケジュール。
とてもとても大変なのでしょうね。
ほんと、がんばってね!」
 
とこうして書いてみると懐かしいですが、この頃に「白雲の城」がリリースされたのでした。
 
 
さて以下はとてもとても個人的な思いになります。
昨年、きよしさんが「きよしこの夜Vol.13」を12月18、19日両日4公演を開催された翌日、わたしは「小さいおうち」という山田洋次監督の映画を、東銀座にある映画会社の試写室で見させていただいたのですが、感動してひれ伏したいような気持ちになったのです。

あまりにもイキイキと描かれた昭和初期の山手の赤い三角屋根の”小さなおうち”での出来事が、今ではすべて過去になっていることに大きな衝撃を受けて、心のふるえが止まりませんでした。
わたしは感動しすぎて泣くのも忘れて見入っていましたが、試写室では後半、鼻をすする音があちこちから聞こえていたのです。
楽しかったこと、うれしかったこと、悲しかったこと、生きるか死ぬかの瀬戸際の思い...。
この”小さいおうち”の物語のように、語る人、記す人、描く人がいなければそんな人のさまざまな思いも、その時代に生きていた人たちも、時とともに流れ去り、いつかは何もなかったかのように消えてしまうのだなあ。
でも人の世の中はそんな名もなき人たちが織りなしているものなのだろうなあ。
そう思ったら切なさと感動で胸がいっぱいになったのでした。 
 
「小さいおうち」は今月25日から公開されるので、CMなどで映画のことをご存知のかたも多いのではないかと思いますが、”小さいおうちに封印された”秘密”が、60年の時を経て紐解かれる――切なくもミステリアスな物語”
というのが映画のキーワードになっていて、もちろん大きな見どころになっているので、それは映画を見てのお楽しみということで、その内容にはふれませんが、昭和初期に東京の山手の赤い三角屋根のおうちで女中さんをしていたタキの目を通して、その”小さいおうち”で起こった日々の”泣き笑い”といった出来事が描かれていくのです。
 
わたしは試写を見終わって帰る道々、今現在を生きていることが奇跡のようなことなのだなあと漠然と思えてきて、そうしたら、きよしさんの「白雲の城」が思い出されたのでした。
以前、熊本城を訪れたときに目にした熊本城の”苔むした石垣”も浮かんできて胸がいっぱいになったのです。
きよしさんの歌唱で何度も聴かせていただいて、そのときどきの自分の心境でその歌の世界を思い描き、込められた思いを受け止めさせていただいてはきましたが、この曲を聴いて以来、もっともその歌の世界に入り込み、描かれた世界の深淵をのぞきこんだような思いがして、
「♪月下に起(た)てる若武者の 凛々しき姿 今いずこ」
という歌詩が、とりわけわたしの心に迫ってきたのでした。
そういえば映画のなかで黒木華さんが演じるタキが
「戦争は終わるのでしょうか?」
と松たか子さんが演じる若奥様に聞くと、
「始まったものは、いつかは終わるんじゃないかしら」
と答えた言葉が深く心に残り、”無常”にも通じる言葉だなあと思います。
「小さいおうち」、ぜひご覧ください。

 
以前、川口リリアホールでのコンサートに行くとき、川口駅でお連れの方をお待ちになっていらした松井先生をお見かけしたことがありました。
長身でスラリとした先生は、ショルダーバックを肩にかけておられたかと思います。
開演時間も近づいてきていたので、お連れの方もそろそろいらっしゃるかと、左右に視線をめぐらされていたのです。
わたしが、”あっ、松井先生”と思った瞬間、パッと目が合いました。
数メートルの距離があったかと思いますが、先生はわたしの目を見ただけで、わたしが先生を存じ上げ、恐らくきよしさんのコンサートにやってきた、きよしさんのファンであることをすぐに合点され、わたしにはもったいないほどに深々と会釈してくださったのでした。
失礼ながら、遅れてわたしもあわてて会釈させていただいたのです。
そのときの先生の折り目正しさが今もはっきりと目に浮かびます。
あの優しくおだやかな先生は、どんな人生を生きてこられたかたなのでしょう。
そしてそのまなざしで、どれほどのものを目にしてこられたのでしょう。
その後、折々に思うようになり、先生が他界されてもその影響力は変わらず、というより、そのお心をより身近に感じるのです。
 
芸能界でも政治の世界でもさまざまな出来事があって、揺るがない人気や地位にいた方がひょんなことからその足元がくずれてしまうこと、ありますね。
どんなに苦労して努力してがんばって築いたものであっても、絶対に揺るがないものはないのだと教えていただきます。
そして慢心という言葉が浮かんできて、そんなとき、決まって思い出すのは、松井先生が書かれた「一剣」。
「♪敵は己の内にあり」
という言葉をかみしめるばかり。
 
ところで2コーラス目の、
「♪剣に男は... 剣に命の華を見る」
という歌詩。
初めて聴いたときは“命の華”ってどんなものなのかしら?と思ったのですが、
今のわたしにはわかります。
なぜなら、きよしさんに、幾度となく見せていただいたから。

そう。
わたしは氷川きよしの歌唱に、生きざまに
“命の華”を見させていただいているのだなあと、今またあらためて感じています。

今日はこれから出かけて夕方まで仕事がんばってから、NHKホールでの観覧に参加します。
「大利根ながれ月」は、「氷川きよし節」でそろそろかけてくださるでしょうか?
ドキドキしてきています。

皆さま、今晩また楽しいご報告をさせていただきますね。