
西鉄天神大牟田線高宮駅から徒歩10分。きよしさんの母校の福岡第一商業高校(現・第一薬科大学付属高等学校)はこの高宮駅を挟んで勝龍軒とは反対側にあります。大池通りという大きな通りに面していてわかりやすい場所にありましたが、お店のテントが色褪せていて、私はその前を通り過ぎてしまいました。
「旅の香り」では野際陽子さんが訪ねて行ったのですが、オーナーは値上げしなければならなくなった時はお店を閉めるとおっしゃっていました。子供たちが100円玉1枚を握り締めて、「おばちゃん、ごちそうさま」と言ってもらえるのが嬉しくて続けてきたお店だからなのだそうです。それ以前にもきよしさん関連の番組に登場されたので知ってはいましたが、このオーナーの思いを聞いてからは、次回福岡に行った時にはぜひともお店に行こうと心に決めていたのです。
お店に入ろうとすると、制服姿の女子高生が3人出てきました。私が中に入ると男の人が3人、ラーメンを食べていました。入って右がカウンター、左は椅子なしのテーブルです。カウンターの中が厨房で、その上の壁にはきよしさんのサインとメッセージの入ったポスターが貼られていました。そして右にメニュー表が掲示されていました。ありました、確かに”ラーメン100円”と。みそラーメンやしょうゆラーメンなど他のメニューもありますが、それらも200円から250円です。おにぎりがひとつ50円。替え玉が100円でした。私はラーメンをお願いしました。出来上がるのを待っている間、ラジオからWBCの放送が流れていました。途中、食べ終わった男性は、きちんと台布きんでテーブルを拭き、「ごちそうさま」とどんぶりを台の上に置きました。そしていよいよ私のラーメンができました。
「おまちどおさま」と差し出されたラーメンは、陶器のどんぶりに入っていて、熱々です。とんこつスープで、チャーシュー、きくらげ、青ネギも入っています。割り箸をパチンと割りながら、百円だと思うと割り箸さえももったいないような気がしてきました。とんこつスープはさっぱりとしていますが、飽きのこない優しい味わいです。麺も博多らしく細麺でいい感じに茹で上がっていました。一口食べるほどに、「なぜこれが100円なの?」と考えました。カップラーメンだって100円では買えない時代にです。チャーシューはきっと脂や骨の多い部分を安価でわけてもらい、手間ひまかけて骨や脂をとって作った物なのだと思いましたが、柔らかくておいしいのです。手間を度外視してこのラーメンを作っているのに違いない。私はそう感じました。楽をして儲けることが賢いと言わんばかりの世の中で、おばちゃんはNOと訴えているのだと思いました。「お金より大切なものがある」と言うのは簡単ですが、実践するとなると難しいことです。でもおばちゃんは実践しているのです。私が実際にラーメンをいただいてみて、このラーメンは100円だから、安いから食べに来るという種類のラーメンではありませんでした。本当に真心のこもったおいしいラーメンなのです。一般的な価格をつけても文句なく成り立つラーメンです。
私は思いました。人生にはいろいろなことがあって、食べるのにも困ることもあるでしょう。そんな時にこのお店に行けば、100円で熱々の真心こもったラーメンが食べられるのです。きっとどんなにか心が温まることでしょう。そして子供たちは大人になって繁華街でラーメンを食べるようになってみて、なぜ勝龍軒のラーメンは100円だったのか、また繁華街で食べるラーメンがなぜ千円近くもするのかということを考えることでしょう。
私自身、このラーメンが100円だと思ったら、これまでに食べたどんな高級ラーメンよりももったいない気持ちになりました。置いてあるコショウさえ、無駄に使わないように一振り一振り意識してしまいました。
ちょうどその時、イチローがヒットを打ちました。「お客さん、やった、やった!」初めて訪れた私にもそんなふうに気さくに接して下さいました。すっかりうちとけて、ラーメンを食べ終わってから、このお店に来たいきさつを話すと、とても喜んで下さり、その日も大阪から来たきよしさんファンの方が寄ってくれたというような話になりました。
「おいしかったです。また福岡に来たら、必ず寄りますから」
そう言ってお店を出ました。
テレビ番組でオーナーと再会したきよしさん、オーナーのことをとても尊敬し大切に思っていらっしゃる様子でしたが、こんなに素敵な方がきよしさんの故郷にはいらして、今日もラーメンを作っているのですね。きよしさんがなぜスターになっても変わらずいるのか、わかるような気がしました。故郷にはこんなふうに変わらずに自分の信念を貫いてがんばっていらっしゃる方がいらっしゃるからなのではないでしょうか。そんなことを思って胸が熱くなりました。
(カウンター横にガラスびんがあり、そこにお志を入れることもできますよ)
そして、次はきよしさんの実家があった街へと向かいました。