
今回刊行された待望の43巻の帯には、昨年「ガラスの仮面」の音楽劇を演出した蜷川幸雄氏の「いつまでも待たせないで!」という激励メッセージが載っていました。帯を見た途端、思わずクスッと笑ってしまいました。だって本当に本当にずーっとずーっと待っているのですもの。でも最近は何だか待つことが当たり前になって慣れてきてしまっていたので、蜷川さんの帯の言葉は新鮮な響きでした。でも大作や長編作品の場合、”何だかここまで引っ張っていったのに随分あっけない終わり方ではないかしら”と思うこと多々ありませんか? でも美内先生はそんなことにならないように、軌道修正をし、試行錯誤を繰り返しながら描き進めているのだと思います。いくら途中で中断しようと失速するどころか加速していると思える展開ですよね。本当に素晴らしいと思います。
ところで私はそんな憧れの美内すずえ先生とお会いしたことがあります。2001年に国立劇場で、花柳寿南海さんの舞踊に感銘を受けた美内先生が脚本を書かれた「猿女」(サルメと読みます)を上演したときのことです。友人のいとこがその舞台の制作者の一人で、友人とお母さんがいらっしゃるようにとチケットを送って下さったそうですが、日程的にお母様が行かれないのでとお誘いいただいて、ご一緒させていただきました。日本の芸能の租といわれ後に猿女と名乗る事になる「アメノウズメノミコト」の回想を通し古代のロマンをドラマティックに描き、エピローグでは「弥栄」という象徴的な文言で「21世紀の岩戸開き」を高らかに歌い上げます。
その幕間に、いとこの方に友人と二人でお礼にうかがうと、その方が後ろを突然振り返って「美内先生、私のいとことそのお友達です。二人とも先生の大ファンなんですよ」とおっしゃいました。美内先生が近くにいらっしゃるなんてまったく思っていなかった私たちは、びっくりしましたが、いとこの方の視線の先には、鮮やかな紫のスーツをお召しになった、小柄で優しそうな美しい女性がいらっしゃいました。美内先生は私たちの前にスッと向き直りにこにこっと微笑まれてから、感激して呆然としている私たちに「まあ、ありがとう」とおっしゃって、さっと先生の方から手を差し出して下さったのです。私も友人も握手していただき、またまた大感激でした。私も手が小さなほうなのですが、美内先生の手はその私がさらに小さく感じたほど小さかったのです。あの小さな手から大河のような名作が生み出されたのだと考えたら、尚いっそう感動しました。「ガラスの仮面」を読むたびに、美内先生の優しい笑顔と小さな小さな手を思い出す私です。
ああ、それにしても、これから一体どうなるのでしょう、いつまでもお待ちするつもりではおりますが、でもこの先どうなるのか、とてもとても気になります。「先生、やっぱりあまり待たせないで下さいね」というのが本音の私です。