そういえば数年前の「レ・ミゼラブル」の制作発表でのことです。前半、出演者による歌の披露があり、抽選で選ばれたファンの方々が観客としていらしていて、場内は満席でしたが、終了後、ファンの方は退出されて、後半は俳優さんごとに分かれての取材となりました。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、囲み取材といって、テレビ、雑誌媒体が混ざって取材者を囲みながら、お話をうかがうのです。私は主役のジャン・バルジャンを演じる別所哲也さんの原稿を書くことになっていて、ワイドショーのテレビカメラをまわしながらの取材となったので、スリッパに履き替えて舞台の上で行うことになりました。
この時の私は後日あらためて雑誌のためにお話をうかがう予定になっていたので、翌日すぐに放送あるいは記事を掲載しなければならないテレビ局と新聞社の方々の取材に立ち会わせていただくことが目的でした。ですので気持ちに余裕もあったのだと思いますが、元来、好奇心旺盛な私は、もう帝国劇場の舞台に上がらせていただけたことで嬉しくて嬉しくて別所さんがいらっしゃるまでの間、客席の方ばかり見ていました。舞台前方中央に立って客席を見渡してみました。その時はもう客席には誰もすわってはいませんでしたが、驚くことに2階席がものすごく間近に感じられたのです。帝国劇場の2階席にすわったことは何度もありますが、自分が2階席にすわって舞台を観ているより、舞台から2階席を観たほうが何倍も近くに感じられたのです。その後、実際に俳優さんや演出家の方にお話をうかがった時に、そんな話題をしてみると、皆さん、そうおっしゃいます。舞台にはそんなマジック(仕掛け?)もあるのですね。もちろん照明が強くあたっている時は眩しくて何も見えないのですが、そうでない時はまるでマジックミラーに映し出されたかのように場内がよく見えるのだそうです。
私はそれまで、多くの俳優さんが「舞台ではお客さんとの一体感を感じる時、幸せな気持ちになります」とおっしゃるのを聞いてはいましたが、言葉どおりにしか受け止めることができませんでした。でもこの舞台に上がった体験から、その一体感をイメージできるようになりました。そして決して大袈裟でなく、舞台は演者と観客が一体になって作り上げるものなのだと心から思えるようになりました。