「お呼びたてしてごめんなさいね、お兄さま。せっかくのお休み状態ですから、お兄さまにお会いしたくて。お兄さまが溺愛していらっしゃるネコちゃんにも会えるかと思うと、我慢できなかったものですから。ロランヴィエル公もごめんなさいね、我儘を言って」
本当はそれさえも口実であると理解しているルイは、しかし何も気づいていないフリをして微笑み、緩く首を横に振った。
「いえ、ご兄妹なのですから、会いたいと思われるのは自然なこと。我儘などとは思っておりません。どうぞ兄妹水入らずをお楽しみください。アシェルが帰る時はお声がけを。私が送るか、共に帰宅いたしますので」
エリクがいてくれればルイがおらずとも帰ることができるとアシェルは振り返るが、そんな言葉は聞かないとばかりにルイとフィアナはにこやかに約束を交わしている。そして「楽しんできてくださいね」と額に口づけを受けて、フィアナの後ろに控えていた侍女に車椅子を押されながらルイと別れた。
フィアナの私室に通されたアシェルは、何故か侍従に車椅子から抱き上げられると見覚えのない絨毯が敷かれた場所に降ろされた。侍女が恭しく靴を脱がせ、アシェルの身体を支えるようにクッションを整える。絨毯が敷かれているとはいえ床に座ると身体が痛くなるのでは、と内心で警戒していたアシェルであったが、その予想に反して身体に一切の痛みはなく、まるで雲の上に座っているような心地だった。クッションも絶妙な位置に置かれているため凭れることができ、細部に拘って作られたのであろう車椅子に座っている時よりもゆったりとでき、身体は楽だった。エルピスもアシェルの手からピョンと飛び降りて手近なクッションの上に乗ると、ゴロンと転がって眠り込んだ。どうやらよほど気持ちいいらしい。
「これはマーティの絨毯を参考にして、バーチェラの様式に合うよう改良したものですのよ。お兄さまはずっと車椅子に座っていらっしゃるから、いくらそれを想定して作られた車椅子であってもお疲れになるかと思いまして。少しはお楽になると良いのですが」
そう言って自らも靴を脱いで絨毯の上に座ったフィアナは、脚の短いテーブルに紅茶や菓子を用意していた侍女たちに下がるよう命じて、二人きりになった瞬間にそっとアシェルの伸ばされた足に触れた。