「必ず会いに行くから、どうか待っていて」過去編 607 | 空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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「よッ! なんかどこもかしこも静かだな」

 片手をあげて挨拶しながら、由弦は店の外にチラと視線を向けて苦笑する。そんな由弦に蒼もまた苦笑した。

「近頃はそうだね~。僕の所はまだ食べるのに必要なものを売っているから、安全を見計らってそれなりにお客さんは来てくれるんだけど、雑貨とか陶器とか、食べ物は食べ物でも甘味系とかはもうぜんぜんお客さんが来なくて大変みたい。でもまぁ、不必要なら出たくないって気持ちもわかっちゃうから、なんともね~」

 誰だって自らの命が大事だ。平穏に過ごしたい民からすれば、縁のなかった刀での斬り合いなどに巻き込まれたくないと思うのは当然のことだろう。蒼も刀とは無縁に生きてきた一般人ゆえに、その気持ちは痛いほどよくわかる。だが、閑古鳥が鳴いている店は、客足が遠のけばそれはそれで生活の危機だ。なかなか難しい問題に蒼はもちろん、店を営んでいる者は皆が頭を抱えていた。

「雪ちゃんたちも来てくれたのは嬉しいけど、昨日に言ってくれたら届けたのに~。ここは近臣の屋敷も近いから、本当に血生臭くて……」

 戦闘などとは無縁で穏やかに暮らしてきたというのに、近頃はほぼ毎日と言って良いほどに誰かが殺されている。買ってくれるのは非情に嬉しいが、蒼の本音としては雪也達も庵に籠っていてほしいほどだ。衛府にわずかでも関わりのある者は皆、尊皇を掲げる者達の標的なのだから。