「ありあまるほどの、幸せを」 118 | 空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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〝アシェル……、ねぇ、アシェル。お母さまのお願い、聞いてくれるわよね?〟

 どうか、どうか……。

 美しい顔を苦痛に歪め、か細い声で縋るように母は幼かった己の手を握った。

〝フィアナのこと、守ってあげてね。アシェル、あなただけが頼りなの。ね? お母さまの最後のお願い、忘れないでね〟

 長兄でも次兄でもなく、己に頼んだ母の真意などわからない。ただフィアナと歳が近かったからとか、フィアナが一等懐いていたからとか、兄二人と違って婚約者が決まっていないからフィアナが結婚するまでは側にいることも不可能ではないからとか、そういった理由であるのかもしれない。わからないけれど、理由など些末なことだ。

〝アシェル……、忘れないでね……〟

 何度も何度も頭に響くその声に、アシェルは小さく唇を噛む。

 

 ごめんなさい、お母さま。もう――。