📖 前回のあらすじ

『走れメロス』の練習で大部屋役者・三郎の指導が暴走!「棒読みだ」「木の気持ちになれ」とダメ出しを連発し、背景を描いた琢磨にも「成人映画みたいにエロい」とツッコミを入れる。図星の琢磨が激怒し、愛想を尽かした男子たちは「本当の役者じゃない」と全員ボイコット。健一や女子たちが止めるも三郎は態度を頑なにし、劇の練習は開幕早々バラバラになってしまうのだった――。



【第49話】三郎の告白と、タイムスリップの真実


「ふざけるのも大概にせぇよ、ほんま……」

怒りが収まらない男子たちは、体育館を飛び出して自分たちの教室へと戻ってきた。机からランドセルを引っ張り出し、背中に背負いながら不満をぶちまける。

「なんや三郎の奴! お前かって売れへん大部屋役者のくせに、偉そうに言いやがって!」

竜二が怒りで顔を真っ赤にして吐き捨てると、背景を描いていた琢磨も悔しそうに拳を握りしめた。

「そうや! 俺が一生懸命に描いた背景をエロいと言いやがって……!」

(※この男、日活ロマンポルノ専門の看板描き師だったので、三郎の指摘は100%図星なのだが、それは墓場まで持っていく秘密である)。

「そうだそうだ!」「三郎のやつ、調子乗りすぎや!」と、男子全員の怒りが爆発したその時、息を切らして追いかけてきた健一と太陽、そして裕子たちが教室のドアを開けた。

「おい! 待てよ、帰るなよ!」

「みんな、一回落ち着いて話し合おうよ」

太陽が間に入ってなだめようとするが、竜二はフンと横を向いた。

「嫌じゃ! 勝手に『木の役』にさせられた挙句、『木の気持ちになれ』なんて言われて出来るかよ!」

そんな竜二に、健一が静かに言い返す。

「……でもお前、配役が決まった時『セリフ覚えんでええからこれでええわ』って納得してただろ」

「うぐっ……それはそれ! これはこれや!」

竜二が言葉に詰まった、その時だった。

ガラガラ……と静かに教室の引き戸が開き、三郎が入ってきた。

瞬時に教室が水を打ったように静まり返る。男子たちは気まずそうに目を逸らし、緊張感が走った。

三郎はゆっくりとした足取りで教壇の前まで歩くと、みんなの方を向き、深く深く頭を下げた。

「……みんな。本当に、申し訳ありませんでした」

いつもの威勢のいい三郎からは想像もつかない、小さく震える声だった。頭を上げた三郎の目は、うっすらと赤く潤んでいる。

「実は俺……この時代に帰ってくる前、令和の病院に入院してたんや。肝臓がんでな、余命一ヶ月って言われてた」

「「「え……!?」」」

思わぬ言葉に、健一も竜二も言葉を失った。

「『なんで俺がこんな目に遭うねん』って悔しくてたまらんくて……病室で泣きながら寝て起きたら、12歳の自分に戻っとった。若い姿のオカンに会えた。美味い飯を作ってくれた。……けどな、俺、知ってんだ」

三郎はぎゅっと拳を握りしめ、ポツリポツリと語りかける。

「小学校の卒業式が終わったらすぐ、オカンは弟を連れて家を出て行ったんや。暴力ばかりふるう親父に愛想を尽かしてな……。それ以降、俺はオカンとも弟とも二度と会えんかった」

夕暮れの教室に、三郎の絞り出すような声だけが響く。

「……だからな、せめてこの学習発表会だけでも、俺の本気の姿をオカンの目に焼き付けてもらえたら……『この子を残して出て行けへん』って、家族がバラバラにならんと済むんちゃうかって……そう思ったら必死になりすぎてしもた。みんな素人やのに……ごめん。本当にごめん……!」

三郎は再び、ボロボロと涙をこぼしながら深々と頭を下げた。

62歳の人生の心残り、オカンへの愛、そして二度目の人生にかけた悲痛な願い。三郎の告白を聞いた教室は、誰も声を上げられないまま、夕日に包まれていた――。


本日も最後までご覧いただき、本当にありがとうございました!

昭和の時代、近所やクラスにも様々な家庭の事情を抱えた友達がいましたよね。三郎の切ない過去とオカンへの想いに、胸が熱くなった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それでは、また次回の『六年三組のタイムカプセル』でお会いしましょう。

サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ……!